連日弱まる隙を見せない、しかしどこか惰性すら感じてしまう雨は、今日もまた馴染みの様相で朝から大地を濡らしていた。まるで梅雨入りの遅さを取り戻そうとしているかのような振り具合に、はじめのころは「梅雨がやってきたんだねえ」と季節の到来を楽しんでいた人々の顔色も、もはやその色は消え去りただただ憂愁を浮かべるばかりだ。しかしその一方で、この時期こそ力の見せどころとばかりに町の中では傘が花を開かせていて、アカデミーが終わると、年の若さを象徴するような色鮮やかな花の数々が川のように道を流れていった。陰鬱になりがちな日常にもそういう瞬間があるとはいえ、一向に止まぬ雨がいつか太陽の火までも水で覆ってしまうのでは、というぐらいに人々の心の中にはすっかりメランコリーが棲みついていたのだった。














今年の入梅は去年よりも七日遅かったらしい。「七日」なんて一般市民からしてみれば大した違いではない気もするが、毎年その記録を取る者にとっては、これは歴史的価値のある統計結果を意味している。長年築き上げられていくその統計を今年も無事に更新することができたというわけだ。けれどそういう一部の努力を除いては、やはり七日という時間はなんでもないことのように思えてしまう。なにせ桜の開花が例年より早いだの遅いだの、猛暑日が今年は何日多かっただの、雪の降る日が少なかっただの、会話の種の一つにこそなれど、それで世界がどうにかなってしまうわけではないのだから。そんなことよりも少年にとって重要な「七日」は、父親が家を出ていってから数えて今日がその日であることだった。

「はあ」

気が付けば溜息。雨が止まないことへの溜息。を散歩に連れていけないことへの溜息。父が帰ってこないことへの溜息。一人で食事をすることにも、一人で買い物にいくことにも、一人で修行に励むことにも、それこそ挙げればきりがないほど溜息だらけだ。それでも今回は見送りができただけ幸いだろうか。早朝出て行き深夜に帰ってくるような生活を繰り返す父が昼間に出て行くのは本当に珍しいことで、数少ない朝食と昼食を共にすることができたのだから、普段に比べれば寂しさも少ないというものだ。しかし問題は任務期間の方で、当初は四日で戻ると告げられたのがもう三日も過ぎていることにあった。
任務が重なることはよくある。それが任務を終えて里に戻ってくる途中に伝令鳥で言い渡されることもあれば、阿吽の門をくぐり抜けたところで待ち構えていた火影直轄の暗部に伝えられることもある。日常的な光景とはいえ、サクモの場合周りの忍とは比べられないぐらい頻度が高い。それだけ里にとっては彼の力が必要ということだった。
他国にその名を馳せ、頼りにされる父を誇りに思う息子は同時に、なぜもそんなに彼ばかりが酷使されねばならないのだろうという不満も持っていた。しかしそれが忍として生きるものの運命にあることを心のどこかでは分かっていたし、自分もいつかはあの大きな背中のように世界を駆け巡る忍になりたいとも思っていた。今一緒にいられない分早く強い忍に成長して、父の隣で任務をこなす日々を送るのが幼いカカシの夢となっていた。

「はあ」

とはいえど。今現在の少年の気持ちが晴れるでもなく。無事でいてほしいという気持ちと、早く帰ってきてほしいという気持ちには手持ち無沙汰なそれも混ざっていて。
もうすっかり忍具の手入れは終えてしまったし、家事だってすることがない。日の光の一筋すら射さない一日どんよりとした世界に、眠気に襲われているわけでもないのに気だるい気持ちが集るのだから困ったものだ。本の続きを読もうと頭では思うのにどうも体が動かない。筋力を鍛えるトレーニングをしようと思うもやはり体は動かない。全てこの天気のせいだ、なんて言い訳を胸に浮かべながらカカシはあたりを見回した。彼が探していたのはどうやらふわふわとした毛のかたまりで、その毛のかたまりことが窓際の定位置にいるのを確認すると、おもむろにそちらに移動しはじめた。(それはする気になるらしい。)
愛犬は寝入ってはいないが、時折重たげに目を閉じる気配を見せつつもガラス一枚隔てた向こう側の世界に虚ろな眼差しを送っている。その眼差しはカカシ以上に陰鬱さを含んでいた。犬にとって散歩は食事と並んで一日の中で一番の楽しみだ、それが奪われてしまっている以上は飼い主以上にストレスが溜まっているのだろう。彼が近寄っても顔を向けず尻尾も振らず。よく見れば鼻がすっかり湿っぽさを失っていて、指先でやんわり触れてみるとかさかさとしていたのだった。

「こういう日がずっと続くのが梅雨なんだ」

カカシは、肢体を投げ出して横になっている愛犬の柔らかな毛に頭を沈めた。犬の後ろ足と肋骨の間―横から見て―にある窪みになんと頭がフィットすることか、とその気持ち良さに酔いしれる傍ら、きっとがこの時期を嫌いになるだろうということを感じていた。梅雨時の雨は風を伴わないこともあり、愛犬の瞳に映るそれはひたすら真っ直ぐの線を描いている。待つ身に時間は果てがないと思いながら、彼も愛犬と同じように外を眺めてみれば、怠惰な自分たちとは違い、軒の雨だれの奥に見える庭先に植えられた紫陽花がひどく活気づいていた。
大粒の滴が元々薄く光沢を放っている葉をより鮮やかに映し出し、その力強い緑とは対照的に花弁は淡く赤寄りの紫色をしている。かと思えば数メートル先の紫陽花は青色だ。いつだったかの梅の見分け方同様、この花の色の変化についてもカカシはサクモから教えてもらった記憶があった。紫陽花は化学変化で変色する性質を有していて、土壌が酸性だと青系に、中性やアルカリ性ならば赤色に変化するのだという。自然の力は不思議だとその時父は付け加えて、まだ蕾だったころの庭先を眺めていたものだ。

(早く帰ってこないと枯れるよ)

この家を建てる前、それこそかなり昔のことになるが、ここには町と町を分ける堺があったらしい。堺といっても畑と畑の間にできた溝を町境にしていただけのことなのだが、そのため両畑の所有者の土の耕し方のせいか、今でこそ平らな庭になっているが微妙に土壌の具合が違うようで、色とりどりの紫陽花を目にすることができるのはそのおかげだった。だからこの綺麗な景色を見たければ早く帰ってこい、と少しの皮肉も込めてカカシはいまだ帰宅しない父に思いを馳せていると、頭の下―の腹から奇妙な音が鳴るのが聞こえた。もう腹でも空いてしまったのだろうか、なんてその音に口角をあげる。育ち盛りの真っ最中だからきっと食事をしても一日中腹は減っているのだろう。以前は湯でふやかしたフードを与えていたが、今ではもう乾いた形状のままガツガツと食事にありついている。まだ発育途上であるためにあまり早食いをしてほしくはないが、それでも美味しそうに頬張る姿はカカシの心に日々安寧をもたらした。それには食後決まってクッションの上にひっくり返り、身をよじるように転がっていて、その行為に最初は親子ともども驚いたものだが、犬塚動物病院で話を聞けば「満ち足りたゆえの表現」だそうで(とはいえ胃捻転も心配なので見ている方としては少しぐらい加減してほしいものであるが。)、父と二人顔を合わせて笑って帰宅した記憶が蘇る。

「ねえ

声をかけるも返事がないので愛犬の視線の先を追えば、そこには一匹のカタツムリが紫陽花の葉に引っ付いていた。少しでも動くものを瞳に捉え、外に行けないストレスを紛らわしているのだろう。気象的なことはどうにもこうにも仕方がないの一言で片づけるより他はないが、愛犬の切なさ一杯の横顔にひどく心が詰まってしまう。だからカカシは思ったのだった。もう少しが大きくなったら、雨の日も外に出ることができるように彼のレインコートとレインブーツを買おう、と。

「そしたら雨も好きになるよ、きっと」

頭の中で雨具を装備したの姿と傘を差す自分の姿を思い描く。雨の日にしか嗅ぐことのできない匂いも沢山あることだろう。レインブーツがあれば肉球もふやけることはないから、遠くへだって歩きに行ける。

(うん、それがいい)

そんなささやかな未来を描きながら。
カカシが小さく笑ったことにも気が付かぬまま、は変わらず外を眺めていたのだった。




*




ドアの開く音でカカシは目が覚めた。眠気など感じていないと思いつつも、という心地よい温もりのせいかどうやら眠ってしまったらしい。しかしすでに愛犬はクッションにはいなかった。重たい瞼を擦りながら部屋を見渡せば、ドアの前で尻尾を揺らしながらおすわりをしている彼の姿が捉えられる。ようやく父が帰ってきたのだと嬉々とするのも束の間、視線を投げた先の半開きのドアから顔を覗かせていたのは、サクモではなくて金髪の長いもみあげを靡かせた男だったので、カカシの思考がはたと停止する。

「あ、いたいたカカシくん」

金髪の男―波風ミナトはカカシと目が合うや否や、大きく手を振りその存在をアピールしながら「おじゃまします」と部屋に入ってくる。眼前の人間が父親でないことに少年はひどく落胆したが、そのことにばっちり気が付いてしまったミナトは、困ったように笑いながら「ごめんね、お父さんじゃなくて」と謝りをいれた。しまった、とカカシは頭を振って彼を出迎えに立ち上がるも、なぜ鍵を閉めていたはずなのに彼がそこから入ってきたのかという疑問がふと頭をよぎる。ミナトが雨に濡れた傘を邪魔にならないように玄関の隅に立てかけると、傘の先端に集まった雨水がタイルの溝を伝って広がっていった。

「今朝までサクモさんと任務に出ていてね」
「父さんと?」
「うん。それでもしよかったらカカシくんと一緒にご飯を食べてくれないかって」

そう言うとミナトは手にしていた白いビニール袋を持ち上げる。その指にはパグのストラップの付いた鍵も一緒にぶらさがっていて、サクモからその時鍵も受け取ったことが読み取れた。ストラップから小さな鈴の音がすると、興味津々そうにが鼻を鳴らす。おそらくそこにサクモの匂いが付着していて気になったのだろう。そんな健気な犬の頭をミナトは優しく撫でてやると、彼は目を細めて尻尾を小刻みに揺らした。

「本当ならサクモさんも家に帰れる予定だったんだけど、また急な任務が入ってしまってね。それで俺に鍵を預けてくれたんだ」
「・・・父さんは、いつ帰ってくるんですか」
「そうだなあ、『明後日には戻りたい』と仰ってたから、あとちょっとの辛抱かな」
「そう、ですか」

花が萎れてしまうみたいに少年の気持ちが消沈していく。優秀すぎる父親を持つ息子というのもまた大変なことだ、とミナトは感じた。彼はまだ青年で子供を持つ身ではなかったが、それでも子供時代を経て今に至るのだ、親が家にいない寂しさや心の空虚さは十分に理解している。

「俺ももっともっと強い忍になって、お父さんを楽にしてあげるからね」

サクモの力がなければ揺らいでしまう里の方がおかしいのだ、と。忍として生きる以上甘えは許されないとはいえ、家族と過ごす最低限の生活を壊される権利はどこにもない。ミナトがカカシの目線に合わせてしゃがんで頭を撫でてやると、少年はどこか恥ずかしそうに視線を逸らして口を開いた。

「俺も・・・」
「ん?」
「俺も、早く大きくなって、父さんの横に立ちたい、です」
「カカシくん・・・」

小さいとはいえ子供の成長は早い。きっとサクモも喜ぶだろうとミナトが目を細める。すると自分も構われたかったのか、がいまだカカシの頭に伸びるミナトの手に前足をかけた。仔犬とはいえもう家に来て三か月だ。がっしりしてきた前足は思いのほか重く、ミナトの腕をずるりと落としてしまった。

「ん!よしよし、あとで構ってやるから。今は俺たちのごはんタイムね」

するとは目をキラキラと輝かせて尻尾を大きく振って一吠えあげる。どうやら「ごはん」の三文字に反応したらしい。

「あれ、勘違いさせちゃったかな」

くすくすと笑うミナトがとても明るくカカシの瞳に映った。父ではなかったことに落胆はしたものの、この波風ミナトという人物に彼は好感を抱いていた。まだ若いのに父の右に立つ彼はとても輝いていたし、その技量に溺れることなく人間としてもよくできている。能ある鷹は爪を隠すという言葉は、きっとこの彼のためにあるに違いないとすら思わせるほどだ。父の物柔らかな笑みとは違って人懐っこ気な溌剌たるそれが人の心を掴んで離さないし、それに二つの笑顔を部屋の明かりが照らせば、彼らの金と銀の髪もまた一層眩くなる気がした。たとえ自分にはわからぬ難しい話をしていたとしても、ふとこちらに送られる視線はとても優しく、たおやかで、そんな緩やかな時の流れがカカシには日の陽射しの温かさのように感ぜられていた。それは今現在も同様で、植物の根を腐らせてしまうのではというほどに降り続ける雨の中、ミナトの笑顔は向日葵のように明るく少年の双眸に映っていたのだった。




*




「いただきまーす」
「いただきます」

炊き立ての白米に、茄子の味噌汁、シラスと万能ネギと飛魚出汁を混ぜた卵焼きに、鶏肉と獅子唐の甘辛煮、そして食卓にちょこんと乗る秋刀魚の缶詰。二人で協力しながら作り上げた夕飯はどれも渋めの献立だが、サクモから教えてもらったカカシの好物ばかりだった。本来ならここに秋刀魚の塩焼きを並べてやりたいところだったが、時期的な問題でまだ魚屋に並んでいなかったため、気持ちばかりにと缶詰を用意したのだ。
食事の支度中、カカシはずっとミナトの包丁さばきに目を奪われていた。惚れ惚れするほどの器用さは父以上で、忍具の扱いと包丁のそれはどうやら全くの別物だということに気付かされた。ミナトの場合は現在進行中で一人暮らしをしていることも相俟って、日頃の家事の賜物といったところだが、反対にサクモの場合一人で暮らしていたのはかなり昔のことで、結婚してからは今は亡き妻がそれを担ってくれていたこともあり、未だに包丁を操る手つきは危なっかしい。それに卵焼きも父が作るとところどころ焦げているが―しかしそれが一生懸命作りましたといった風で、とても家庭の料理らしく仕上がっているのだが―ミナトが作るものは四隅もそろっていてとてもきれいだった。
そんな卵焼きにカカシが箸を入れると、温かさの象徴である湯気がゆっくりとのぼっていく。出汁の良い香りが二人の間を漂えば自然と心が安らいだ。いざ口の中へ導くと、ふんわりとした卵の食感にじゅわっと染み出る出汁の旨味。シラスの塩気が舌の上を踊り、万能ネギが良いアクセントとなって全体をまとめている。

「おいしい・・・」
「ん、我ながら上手くいったかな」

胃が満たされるだけではない温かさがカカシの心を包み込む。それはサクモと食事をしているときの感覚に似ていた。もくもくと、次から次へとおかずを口に放り込む。体が食事を美味しいと感じている。なんて素晴らしいのだろう。
一人で食事を取るとき、その食事を作るのはたいていカカシ自身だった。もちろんサクモも用意をして冷蔵庫に置いてはいくものの、長期の任務ともなれば毎食分作り置きをすることはかなわない。自分で作る料理はどちらかといえば美味しいというよりも、生命維持のため、という方が正しく、それゆえにこそ米を炊くことができるようになったことも、味噌汁を作ることができるようになったことも、そうして新たな「なにか」を覚えれば覚えるほど、それは自分が家に一人であることを浮き彫りにしている気がしてならなかった。
だからこそカカシはの食事を眺めるのが好きだった。愛犬はいつだって食事の一時間前ぐらいからそわそわとし、期待に満ちた目で飼い主を眺め、待ちに待ったのちに目の前に出されたご馳走を心の底から美味しそうに、幸福そうにたいらげるのだ。満ち足りた彼の表情を見ると、自身の寂しげな食卓にも華が咲くような気がして、ただ満たしただけの腹にも温かさが宿る気がして。

(良かった、沢山食べてくれてる)

箸の止まらぬ少年の様子にミナトは安堵した。大人しい性格ゆえにあまり多くを語らないが、もぐもぐと口を動かしてくれているなら一安心だろう、と。
そうして自身も甘辛煮を口に含みながら、家主不在の部屋なかを軽く見回してみる。この雨続きできっと掃除が捗ったのだろう、家具調度はぴかぴかに磨き上げられていて、雑誌も角をそろえてサイドテーブルに置かれていた。部屋干しの洗濯物が大きなラックの二段目にかけられていて、子供の背丈で一生懸命背伸びしたことも窺える。それに、窓の傍に置かれた愛犬専用のクッション―真ん中の辺りがへこんでいて使い込まれたことが一目瞭然である―の隅のところに不恰好な縫い目が見出されて、それは明らかに少年が修復した痕跡だった。

(立派に家を守ってるんだなあ)

喜ばしくも切ない子供の成長に、ミナトはサクモが一刻も早く帰宅できることを願った。カカシはきっと知らないかもしれないが、自身との任務の待機時間において、彼から提供される話題といえば専ら息子について、なのだ。
息子の話をしている時の彼は忍ではなく父親であったし、嬉しそうに話が進めば進むほど、現在とのコントラストを感じるからか胸に大きな錘を抱えているようだった。しかし彼は言っていた。確かに任務中は息子と離れ離れだが、けれども任務が進行するということは息子と会える時間も距離も縮まっているのだ、と。

「カカシくん、食べ終わったらてるてるぼうず作らない?」

今回帰還が遅れてしまったのは言わずもがな、この天気のせいだった。足場も悪く匂いも掻き消される雨の嵐の連日連夜。加えて森に生い茂るドクダミの匂いが余計に嗅覚の邪魔をした。トラップを仕掛けようにも起爆札は役に立たないし、怪我でもしようものなら雨と湿度で治るものも治らない。天候の悪さは敵方にももちろん平等に訪れるが、厄介なのはその分護衛が固くなることだ。そのような中、計画通りに事は進まず、結果遅れを生じさせることとなってしまった。とはいえチーム全員のスタミナの配分ペースや、不測の事態に備えたフォーメーションの取り方、そして次々に変化する状況における決断力など、そのどれもがサクモのように経験値の高い忍だからこそ成せる技なのであって、それを考えれば三日など正直遅れどころか早いぐらいだ。彼と同じことができるかと問われたならば、自分の答えは間違いなく「ノー」だとミナトは思う。

「少しでも早く任務が終わりますように、ってね」

そして少しでも多くこの親子が一緒にいられるように、と心の中でさらに願をかける。
するとカカシは、手にしていたすっかり空っぽになった缶詰を食卓に戻すと、少しだけ身を乗り出すような体勢で口を開いた。

「あの、俺、作り方知らなくて」
「大丈夫大丈夫、簡単だからすぐ覚えられるよ」

少年が期待に肩を跳ねさせたのをミナトは見逃さなかった。

「本当ですか?」
「もちろん、あ、100個ぐらい作っちゃおうか!」

それは作りすぎです、なんて言葉がカカシの頭を過ぎったが、それ以上に彼の瞳には星が宿っていた。そんな声音の変化した二人をはテーブルの横からじっと眺めながら、首を傾げて不思議そうな顔を浮かべていたのだった。










(2016.4.7)               CLOSE