※少しですがナルヒナ表現ありなので苦手な方はご注意を。 |
麗らかな日曜日の午後、火影の執務室にて。 忍にとっては普段と変わらぬ一日だが、そうでない者にとっては今日は誰もが待ち望む休日だ。街中では家族連れやカップルが行き交い、思い思いに時を過ごしている。活気付いた声が、開けられた窓から絶え間なく入り込んできては、そんなのどかな音を傍らに、六代目火影は目の前で山積みになっている書類に目を通すのだった。 「はいどうぞ。お疲れさま」 「悪いね、ありがと」 ことり、と静かにマグカップを置いたに、カカシは目を細めて笑みを返し、書類の塔の合間からもくもくと湯気の上がるカップの中身を覗き込んだ。するとそこには見慣れぬ飲み物が。これはまたなにやら新しいぞ、と彼は燕のように首を傾げて再び彼女の方に視線を戻す。 「アカデミーの子どもたちが授業でずーっとミントを育ててたの。で、収穫したから火影様にって」 「へえー、それはそれは」 持ち手に指をかけ香りを嗅げば、すっきりと清涼感のあるそれが鼻をくすぐる。子どもたちが手塩にかけたミントから滲み出る、うっすらと色づく若草色は目の疲れまでも癒してくれるようだ。火傷をしないようにそっと口を付けると、香り以上の爽快な味が睡魔の進行を阻むように口の中に広がった。 「ん、美味いよ。今度直接お礼に行かなきゃな」 「そうしてあげて。きっと喜んでくれるわ」 カカシの言葉にの目も弓なりになる。平和の織り成すゆるやかな揺蕩いが、お互いの顔を見つめている二人を包みこんでいた。 しかし、そんな空間を優美さが満たそうとしたその時だった。今にも壊れそうな勢いで、窓枠にぶつかりながら何者かが目にも止まらぬ速さで飛び込んできたのは。 本来ならば火影の執務室にそんな輩などあってはならないところだが、その侵入者は気配の「け」の字も隠す気のない、その上さらに二人にとって何ら警戒する相手ではないからか、転がってきた大きな肢体を前に、二人はただただきょとんとしていたのだった。 「ナルト?どうしたんだお前そんな慌てて」 「はあ、は、カカシ先生、あ、ねーちゃんも」 突然やって来た大きな何か―ナルト―は、膝に手をつき室内にいる二人に目配せをすると、深呼吸をしながら乱れた息を整えている。 「ん?影分身?なの?」 チャクラの流れが普段の本人のそれとは若干違うことに気が付いたがそう言うと、米神に垂れる汗を袖で拭いながらナルトは、ハハ、と笑う。任務服でないことからナルトが今日は休みだということをカカシとの二人は理解していたが、如何せん事の次第が読めないだけに一体何が起きたのだろうと、ナルトの口から何か発せられるのを今か今かと待ちわびた、のだが。 「あーと、えーと、その、カ、カカシ先生」 彼から発せられた言葉から読み取れることと言えば、どうやらカカシに用があるらしいということだけ。付け加えるならば、人差し指で頬を掻いてるぐらいだろうか。それも何か言いづらそうに、目を泳がせている。 「なんだ、どうしたんだ?」 「あのさ・・・」 ナルトはちらりと後ろを振り返る。どうやらのことを気にしているようだが、あまり時間がないのだろう、急いでカカシの元に近づくと、ぼそぼそと何かを囁き始めた。 元先生と元教え子である二人の関係は今も確固とした信頼で結ばれており、今は其々独立してはいるものの、その光景はなんだか昔を想起させて仕方がない。彼女は目の前の二人に微笑ましさを感じながらも、自分がここにいたのでは気持ちよく話ができないのだろうと察すると、そろそろお暇しようとカカシに目配せするタイミングを窺った。だが恋人から漏れる笑いに、その内容が気にもなってしまう。 「・・・っぷ」 「わ、笑うなよ先生!」 「すまん、いや、だって、っくく」 ふき出したカカシと、耳を赤く染めるナルトと。 一体何の話をしていたのだろう。会話に置いてきぼりのが首を傾げる。さしあたり何か危険を伴う事態ではないということは呑みこめる。 「くっくく、そーかそれでお前影分身なんだ」 「う、うるさいってばよ!いいから、な?同期の奴らにはこんなこと言えねーし、先生しか頼める相手がいねーんだって」 「ま、そりゃそうか」 笑いすぎたせいか今にも涙を零しそうなカカシは、「あー」と楽しそうに息を吐きながら大きくなった元教え子の頭をぽんぽんと撫でた。口をへの字に曲げながらも、ナルトはその行為をただじっと黙って受け入れている。 (・・・やっぱり、私はそろそろ行こうかな) その微笑ましい語らい(の目にはそう見える)に水は差すまいと、また後日にでも事の真相を聞けば良いのだと、彼女は部屋から出て行こうとしたのだが、丁度その時「」とカカシに呼び止められてしまった。別れの言葉でもくれるのだろうかと振り返ると、彼はにこりと笑って拱きしているではないか。今まで自分は全く関与していなかったのに、と疑問符を頭に浮かべながら彼女が再び机の前へと舞い戻る。 「私?」 「ま、昔からナルトは口で説明しても理解するタイプじゃないからな」 「え?なに?どういうことだってばよ」 「、もっとこっち」 今の今まで外野だったに何をするというのだろう、言われるがままに彼女は今しがた立ち上がったカカシの横へと移動する。 「ま、まさかカカシ先生!ちょっマジでっ」 「よーく見てろよ、ナルト」 「ギャーッ!先生!」 動揺して手を四方にびくつかせるナルトとは裏腹に、カカシは口角を上げて、話の流れを飲み込めていないの腰をぐいと引き寄せる。段々と近づいてくる困惑した恋人の顔が可愛らしい。 (えっ、なんで、こんな、近いの、ええっ?) どうして彼は近づいてくるのだろう。止まる気配が全く窺えない。このまま距離を詰められたら、そんなの答えはひとつしかない。けれどもどうして今この場で。明らかに混乱を隠せない彼女から、「あ」とか「え」とか言葉にならない声が漏れる。 「え、カカシ、な」 きっと彼女は「何」と言いたかったに違いない。だが丁度口が開いたところで唇を攫われてしまい、その言葉の続きが紡がれることは無かった。 「ん、ぅ」 カカシの口布が下ろされる瞬間、そして整った唇がのふっくらとしたそれに触れる瞬間。その肉感を伝えるが如く柔らかく形を変形させていく様の一つ一つがまるで時の流れが遅くなったかのように鮮明に、ゆっくりとナルトの視界に呑まれていった。目の前で繰り広げる様の生々しさにナルトは思わず両手で顔を塞ぐが、それでも興味の方が勝ったのだろう、指はしっかりと間隔を取っている。最早瞬きすら忘れて指の隙間から見える光景に釘付にされてしまったのだった。 (フ、フタリトモエロイッテバヨ・・・) 啄ばむように触れる程度だったのが、滑らすように顔の角度を何度も変え、そして今や円を描くように男の舌が女の舌を絡め取っている。 (オ、オトナ!) 隙間もないぐらい唇が押し付けられたかと思えば今度は両者の赤い舌が見え隠れする。絶えずカカシから送られてくる舌技の数々に、逃げられないようにがっちりと固められたの身体が小刻みに震えている。次第に彼女の頬が赤く染まっていく。目に滲む涙はそれはそれは艶やかで。そして卑猥で。 ナルトは心臓の高鳴りとともに背徳感すら感じたが、どうしても眼前の光景から目を離すことができない。狼狽する彼女とは反対に、口付けを楽しむ彼の姿は大人の余裕と言ったところか。彼がわざと粘着質な水音を立てると、絆された恋人からはくぐもった声が漏れる。喘ぎ声にも近いその音は、かつて自来也との旅の途中に泊まった曖昧宿から聞こえたそれに似ていた。あれはきっとそういうことだったのだと、この光景の延長線にあるのがあのことだったのだと自覚するとナルト、もといその分身は興奮の許容範囲を超えてしまったのか、顔を林檎のように真っ赤にし、ボンっと煙と共に消え去ってしまったのだった。 「・・・っは、も、やだ、カカシ、なんなの、なんでナルトの前で」 「あれ、いなくなっちゃった」 「?」 「あ〜ナルトのおかげで思わぬご褒美もらっちゃったな」 「どういうこと?」 「んー?いいのいいの」 「ナルト君?」 「えっあーっほら、メシ行こうぜメシ」 「どうしたの?顔赤いよ?」 「な、なんでもねーってば(俺にはあんなキ、キ、キスなんてゼッテームリ!!!)」 (2014.12.18) (2017.5.20) CLOSE |