ツイッターのタグ「#1RTで文字書き歴2RTで使ってるソフト3RTで書くときのこだわり4RTで一番書くのが好きなシーン5RTで即興SS6RTでネタの降臨のパターン7RTでストックしてあるネタ8RTでプロット9RTで完成形10RTでボツ作品晒す」の5RTのSSです。

















コンロにかけていた薬缶から沸騰を知らせる笛が大きな音で鳴り響き、ソファでまどろみかけていたがその音ではっと目を醒ます。
彼女は立ち上がり重たい瞼を何度か瞬かせ、さらに指の腹で強めに目頭を擦りながら台所へと向かった。そこは部屋の中でも一段と温度と湿度が高くなっていて、だいぶ気温の下がった季節の午前には再び眠気を誘いそうそうな居心地の良さがあった。

火を止めて薬缶の蓋を開ける。どうやらつまみが思った以上に熱かったようで、彼女はつい放り出すようにそれを手から離し、壁に引っ掛けてあるミトンを一つだけ取り外した。その間にも露になった水面から、勢いの良い湯気が鼻先を掠め上へ上へと昇っては宙に消えていった。
不精はしないに限る、と二周りも大きくなった手で薬缶の取っ手を掴み、既に用意してあるフレンチプレス―その中には粗目に挽いたコーヒー豆が入っている―に静かに湯を注いでく。最初に薬缶の蓋を開けていたのは少しだけ温度を下げるためだった。というのも、沸騰した湯を使うと豆の持つ雑味まで一緒に出してしまうからだ。
もくもくと漂う上質な香ばしい香りを胸一杯に吸い込み、至福そうなため息をつくと、彼女はプレスに蓋を乗せて時計に目をやった。でき上がるまで五分弱。それまで明日の任務の概要でも頭に入れておくかと居間に戻ろうとした時、部屋のチャイムが鳴ったのだった。
カカシだろうか、とも思ったものの彼ならばわざわざ自宅のチャイムを鳴らしたりはしないだろう。両手が塞がっているなら話は別だが、彼は買い物に出かけたのではなく七班と任務に行ったのだ。大荷物になる筈がない。
ドアの向こうの気配を読み取れば別段変わった空気があるわけでもなく、慎重になってしまうのは忍の性故で、こういうのも疲れるものだとはため息を吐きながらノブに手を伸ばした。

「初めまして。あなたがさん?」

現れたのはが見たこともない男だった。

「えーっと・・・どちらさまでしょう、か」

この長身の男のなんと奇妙な出で立ちであることだろう。全体的に整っているであろう顔をしているものの、その瞼には暗いトーンのアイシャドウを塗りこめ、さらに目の下から頬にかけて同じ色のテープが貼られている。髪の毛は良く言えば無造作ヘアとでも言うのだろうかしつこそうなくせ毛で、服装もどこか埃っぽい。長いコートに合わせているのがこれまた長いマフラーのせいか野暮ったい雰囲気も禁じ得ない。

「・・・ん?あなた」

しかし背の高さといい口元の黒子の位置といい、男の姿がの目に馴染んでしまえばそれはもうとんだ茶番に他ならないのだった。

「僕、スケアって言います」
「・・・なにしてるの?」
「え?なんですか?」
「カカシでしょ」

男―スケアは目を細めた。そして首を傾げての言っている意味が分からないと疑問符を浮かべる。

「僕がカカシさん?まさか」
「任務は?どうしちゃったの?」
「任務?さっき偶然里の入り口でカカシさんに会って、それも十年ぶりですよ。ご飯でもどうかってなりまして、でもまだ自分にはやることがあるから先に家に行っててくれって言われたんです。彼女もいるから三人で食べようってね」

いかにも優男といった風で気配や声こそ違うが自分が見間違うはずがない。その確信がの胸中にはあった。けれども眼前の男はどうやらあくまでしらを切るつもりらしい。ならばこちらもそのままではいられないと男の首に巻かれたマフラーに手を伸ばした。が、引っ張られるのを阻むかのようにスケアも瞬時に彼女の腕を制止にかかる。

「初対面の相手にこんな・・・案外大胆だねさんは」
「首元に見られたくないものでもあるのかしら?」
「え〜なんのことかなあ」
「もう、折角コーヒー淹れてたとこだったのに。苦くて飲めなくなっちゃうじゃない」
「ほんと?俺の分もある?」

何の前触れもなく本性を現すものだから、は目の前の男がカカシと分かっていながらも身動きを取ることができなかった。騙す気の欠片もなさそうなネタばらしに拍子抜けと言うべきか、なんと言うべきか。
きょとんとした目でスケア、もといカカシを見やれば彼は、ふう、と息を吐きながらマフラーを取り去りそっくりそのままの首にかけてやる。微かに静電気が起こった。
彼女の身長には大きすぎるそれは(しかも単に首に引っ掛けただけ)太腿のあたりまで垂れており、カカシの肌に直接触れていたからかほんのりと彼の匂いがした。

「さすがに相手じゃ無理か」
「どれだけ一緒にいると思ってるのよ」
「そりゃそーだ。あ〜まだマフラーはちょっと暑いかな」
「ならしなきゃいいのに」
「誰かさんにこんな跡付けられちゃねえ」
「パッと見じゃ全然分からないよそんなの」

そう言うとカカシはにこりと笑っての頭を優しく撫でた。それはどこか満足そうな顔だった。
一体全体何のお遊びを思いついたのやら、と、半ば呆れながらは部屋の中に入るカカシの背中を見つめる。
正体を明るみにしてもその変装と声は元に戻す気が無いようで、それを考えれば自分は大方実験にでも使われたのだろうと思い至るが、果たして自分は実験相手として効果的だったのだろうかという疑問が残った。一緒に暮らしている相手だからこそ、というのもあるだろうが、黒子も隠さず肌の色も素のままでよくもまあ抜け抜けと目の前に現れてくれたものだ。
とはいえ普段とは違うくせ毛の黒髪に目の色、そしてミステリアス(なのか胡散臭いなのか迷ったというのは伏せておく)なメイクに若干の気まずさを感じずにはいられない。
所作がカカシなだけにそれは余計にそうだった。

「ん、美味いよコーヒー」

きっと直ぐに出かけるのだろう。カカシはコートも脱がずにマグカップに注いだコーヒーに口を付けていた。

「変装なんかしちゃって何しに行くの?」
「ちょっとね、子供たちをからかいに。はい、の」
「ありがと。意地悪な先生ね」
「あいつら可愛いからな」
「良かったわね楽しそうで」
「ん?やきもち?」
「まさか」
「はは。ま、帰ってきたらこの格好でイイことしような」
「変態」



























(2015.10.25 風/の/書/のメイクオフ中のカカシの首元にあったアレ)
(2016.7.29 修正)               CLOSE