「今日はいつになく混んでるね」 朝家を出ると、目の前を通りかかったミナト先生と鉢合わせた。昨日遅くまで仕事をしていたらしく、どうしても朝早くに起きれなかったそうだ。 授業開始時刻よりうんと早く教職員たちは出社(学生にとっては通学だが、社会人にとっては大学はお勤めの場所、会社なのである)しているので、この時間に先生と会うのは珍しかった。 「ね、高校生かな、一杯」 電車に乗ったは良いものの、車内は高校生らしき少年少女で埋め尽くされていて。きっと校外学習にでも出かけるのだろう。そのためただでさえ混みあう車内が、今日は一段とその色を増していたのだった。 「、大丈夫?こっち側に来るといい」 そう言うや否や先生は私の腰を引き寄せてドアの方へと押しやった。こちらのドアはさっきの駅を最後に、大学の最寄の駅まで開かないのだ、が。 (・・・う、これは) ただでさえ近くでドキドキするのに。駄目だ。近い。近すぎる。数センチでも動けば頭が先生の胸元に当たってしまう。駄目。駄目だよこんな至近距離―…。 「わっとと」 「きゃっ」 途中駅からさらに人が乗り込んできて、車内の人と人の間隔がより狭くなる。 降りることを考え中の方へ詰める人が少ないせいだけれど、それを差し引いても今日の混雑具合はひどいったらありゃしない。だからとんでもないことになってしまった。乗客に押されバランスを崩したのか先生が、自重を支えるために私の後ろにあるドアに手を付いたのだから。 「せ、せんせ、だいじょう、ぶ?」 「ごめんごめん、ちょっとこのままで」 「・・・ッ」 それは私からすれば今巷で話題の、あのシチュエーションにしか映らないから困ったものだ。 先生の吐息がすぐそこに。先生の体温がすぐそこに。感じる。これまでにないほど強く。 どうしよう、私汗かいてないかな、化粧崩れてないかな、毛穴開いてないかな、無駄毛ちゃんと剃ってたかな。 (近すぎるよ・・・!) 心臓が尋常じゃないぐらいに高鳴る。体を突き破りそう。人間って確か心臓が鳴る回数が大体決まってるんだっけ?やだそれじゃもう今すぐにでも死んでしまいそう。でもそれじゃ先生と一緒にいられない。やだ。離れてほしい。 ううん、違う、離れないでほしい。ずっとこのまま先生を近くに感じていたい。ああ、このまま電車が止まらなければいいのに。急に霧隠れ町行きにでもなって、それで満員電車のまま、こうして先生の腕の中にいれたらいいのに。 「?」 「え、あ、そ、その」 「大丈夫?顔真っ赤だよ、苦しくない?俺に寄っかかっていいからね?」 そんなことしたら死んじゃうよ先生、とは言えずに。だからもはやこくこくと頷くぐらいしか私にはできなくて。 * 「カカシ、私死んじゃう」 「来て早々なに」 「あーーーつらい」 「顔は嬉しそうなんだけど?」 「はあ・・・つらい」 (ミナト先生絡みかな・・・) (2015.5.5) (2016.3.20修正) CLOSE |