ある日の帰り道、遠目に女と手を繋いで歩いていくテンゾウを見かけた。奴は俺がアルバイトをしている本屋の後輩で、木の葉芸術大学の建築学科の学生だ。(木の葉大学と木の葉芸術大学は名前こそ似てるが全く別物である。)
いつのまに彼女なんてできたんだろうと別の日に聞いてみれば、テンゾウは少し顔を赤らめながら「そりゃあ僕だって大学生ですし」と答えた。そんな返事をされた俺は少し真面目に思い出してしまったのだ。最後に彼女がいた時のことを。

それは大学に入ってすぐのことだった。図書室で朝から晩まで読書をしていたら、そんなに読書が好きなのかと声をかけられたことがあった。変なきっかけで知り合った女だったが、趣味が合ったこともありしばしば話すようになったのだ。性格は悪くないし、話も合うし、そしたらいつしか付き合うようになっていて。
けれど三ヶ月ぐらいしか続かなかった。破局の原因は俺がイチャイチャパラダイスを読んでいたから。しかも、いつか変なプレイを強要させられそうで怖いの、とまで付け加え。
生憎だが、セックスにおいてそういう性癖は持っていない。いやもしかしたら深層心理では持っているのかもしれないが、彼女にはそういう思いはこれっぽっちも抱いたことがなかった。
それにそのぐらいで終わる中なのだから、どうせ最初から長続きなんてしなかっただろう。

「カカシ先輩はなんで恋人を作らないんですか」

シフトを確認しに店にやって来ると、上がったばかりのテンゾウに声をかけられた。

「・・・なんでって、できないから?」
「先輩なら引く手数多でしょうに」
「引く手数多ってあのね。そんなわけないし、それに好きでもない子となんて付き合えないだろ」
「その内ゲイ疑惑が浮上しそうですね」
「は?喧嘩売ってんのお前」

そんな滅相も無い、とテンゾウは場を繕い直した。
こいつが恋愛関連の話を持ち出す時は大抵彼女と喧嘩した時で、そういう時は決まって根掘り葉掘り聞いてくる。

「・・・好きな奴がいるんだよ」
「え!それならそうと早く言ってくれれば!」
「『え!』ってお前さあ・・・」

こいつ。八割方俺をゲイだと疑っていたんじゃないか。

「どんな方なんですか?」
「どんなって・・・」

そういえば。俺はなんでが好きなんだろう。何がきっかけだったんだろう。一目惚れなんてしないタチなのに。
波長が一番の理由だろうか。パーソナルスペースにがいることが嫌じゃない。いや、でもそれじゃ説明にならない。だって好きだから近くにいても不快ではない、ということなのだから。
するとなんだろう。俺はどこに惹かれたんだろう。
影がありそうだったから?ミナト先生を好きな彼女じゃなかったら、ただの友達だった?
でもそれもきっと違う。だって好きじゃなかったら、ミナト先生とが不倫してても(実際はしてないが)心が痛くなる訳がない。

「先輩がそんなに悩むなんて凄く好きなんですね」
「え」
「どのぐらい好きなんですか」
「・・・一年半ぐらい?」

その言葉を聞いたテンゾウは目を真ん丸くした。ただでさえ大きな黒目が更に大きくなる。
きっとこんなにも長い期間だと思っていなかったんだろう。恋をしている俺でさえ、もうそんなになるのかと正直驚いているぐらいだ。だから不毛なんだ。慕っている人がいる人間に恋をするのは。

「僕も会ってみたいなあ、先輩の好きな人に。大学お邪魔しちゃいますかね」
「お前ほんとに来そうで怖いよ」
「あ、男性じゃないんですよね?」
「うるさい」












(2015.4.15)
(2016.3.20修正)               CLOSE