夕方。体育館裏。人がいない。いや、男女が二人、なにやら面と向かって話している。そんな二人の横を通り過ぎ、俺はその奥の自販機へ。というのもここに設置してある自販機にしかないのだ、その名も「豆茶」が。こいつが妙な美味さで最近とても好きなのである。
いざ金を入れて豆茶のボタンを押そうとすれば、聞こえてくるのは先ほどの男女の声。盗み聞きする訳じゃなかったが、耳に入ってきてしまうのだからしょうがないし、話してる内容が内容なだけに振り返ってしまったのだってしょうがないことだ。

ちゃんと半期演習一緒で凄く楽しくて、気付いたら好きになってて、だから、良かったら俺とつきあってください!」
「・・・ありがとう、気持ちは嬉しいけど、その、私、好きな人が、いて」

女が頭を下げると、男は女に何か二言三言残してその場から走り去るように消えてしまった。告白現場なんてそう何度も遭遇するものじゃない。だから俺もついつい見入ってしまったのだが、それがいけなかった。頭を上げた女と、目が合ってしまったのだから。

「・・・!」
「・・・!」

お互いに、ぱちくりと。
気まずい沈黙が流れたのは言うまでもない。

「・・・校舎裏で告白って、そんなの初めて見たよ」
「・・・初対面の人に向かってそういうこと普通言う?」
「はは、君と目が合っちゃったから、なんとなく」

ジト目の女を横目に俺は自販機に金を入れていたことを思い出し、ボタンを押した。
気づいた時には指は豆茶の二つ隣のそれを押していて、一体全体なぜこんなことをしているのか自分でも不思議だった。

「はい、フった記念」
「え?」
「・・・いらない?」

俺は一歩女に近づいて、買ったばかりのミルクティ缶を差し出す。

「っぷ、フった記念って」
「名前、何ていうの」
。あなたは?」
「俺ははたけカカシ」
「はたけくん」
「いいよカカシで」
「じゃあ私もでいい」

ようやく目的だった飲物を買うために再び小銭を自販機に入れると、隣で缶のタブが開く音がした。小声で「美味しい」と言った彼女の台詞を俺は聞き逃さなかった。

「・・・なに買ったの?」
「豆茶」
「おじいちゃんみたい」
「初対面の人に向かってそういうこと普通言う?」
「・・・あはは」
「・・・っくく」

笑ったはとても、とてもきらきらしていたのだった。












(2015.3.30)
(2016.3.20修正)               CLOSE