ミナト先生がコンビニで買ったものは、新発売の「ガマくんウエハース抹茶味」だった。(ちなみに一袋三枚入りで百円。)先生曰く、袋に貼られたシールを五十枚集めると、必ずガマくんのクッションが貰えるそうだ。新発売の抹茶味に合わせてカエルの色は緑で、目は閉じていてつり上がり気味。犬がお座りをしているみたいに、両手を前についているのでクッションというよりはぬいぐるみに近いかもしれない。それをゲットする為に先生はナルトと毎日ウエハースを食べているらしい。熱弁する先生はとても無邪気だった。 電車を降りると先生の携帯が鳴った。夜の黒に先生の顔が浮き上がる。どうやらメールのようだ。 「あ、夜鍋だって」 「え、また季節はずれな・・・」 「商店街のくじ引きで当てたんだって。とおばあちゃんも一緒にって言ってるんだけど、食べにこない?」 クシナさんは強運の持ち主で、商店街のくじ引きで賞を当てることが何度もあった。彼女自身はその運を宝くじで使いたいらしいのだが、そちらの方で今まで引き当てた額といえばスクラッチの二百円がせいぜいだった。 でも私は思う。宝くじより商店街のくじ引きが当たるほうがきっと良いのだと。ありふれた日常にはささやかな彩りぐらいが丁度良い、こっちの方が温かみがあって、なんだろう、ほっこりする、と。 「おばあちゃんは自治会のじじばば軍団と旅行なの」 「あ〜そういえば回覧板にあったね。どこだったっけ?」 「火の国温泉だって、それも五日間も」 「そっか、それじゃますますはうちでご飯食べないとね」 まさかそんな返しがくるとは思ってもみなかった。だから私は先生を見たまま何も返事ができなくなってしまっていた。 だってそうやって優しくされると、嬉しいけれど、少しつらいから―…。 私の中の先生に対しての「好き」は二種類ある。一つは異性としての「好き」、もう一つは人としての「好き」。前者は先生に依存的で、一緒にいられるのならいつまでだって傍にいたいと願ってしまう。けれども後者はそうじゃない。小さい頃からずっと気にかけてくれて、お世話をしてくれて、とてもとても感謝しているからこそ自立をしなくてはいけない。 その意味において私は優しくしてくれる波風家に甘えていては駄目なのだ。 「・・・先生、私はもう一人でも大丈夫だよ?」 歩を止め、街灯の下で先生にそう言う。 そう、だってもう、大学生だから。いつまでも何も出来ない子供じゃないもの。 「、一人でご飯なんていつでも出来るけど、誰かと食卓を囲むのはいつでも出来ることじゃないよ」 「・・・」 「もちろん無理強いはしないよ。でも甘えられる時にわざわざ一人を選んだりはしてほしくないかな」 「先生・・・」 「それになにより、俺たちがに甘えて欲しいってのもあるんだけどね」 先生はやさしく微笑んだ。 「いや?」 おねがい、そんな顔して覗かないで。 「・・・ううん、やじゃない」 「ん、そうこなくっちゃ」 「帰ろう」と一言添えてすっと差し出された先生の手。 大きな手。優しい手。温かい手。昔から変わらない、大好きな先生の手。 「・・・こうやって先生と手を繋ぐと、昔を思い出すなあ」 「可愛かったな〜ちっちゃい頃の」 「今も可愛いでしょ?」 「ん、もちろん!今もすっごく可愛いよ」 「・・・!!!」 (自分で言って自爆するとか、死にたい・・・恥ずかしい・・・!) (2015.4.4) (2016.3.20修正) CLOSE |