「そういえばはいつからカカシと知り合いなの?」

学食の隅の席でとリンは座っていた。二人とも毎週木曜日の三限が空いているため、学食でのんびりしていることが多いのだ。はミルクティーを、そしてリンはレモンティーを。そして買ったばかりのクッキーの袋を二人で分け合いながら。
学年が違うことなど微塵も感じさせないぐらい二人は仲が良く、友人たちから姉妹と呼ばれることもしばしばだ。

「いつからかな、一年生の秋ぐらい、からかなあ」
「なんていうか、ちょっと意外だったの」
「え?」
「カカシって女の子とずっといるようなタイプじゃなかったから」

リンはオビトの中学生時代の同級生だった。高校でオビトが男子校に行ってから離ればなれになってしまったものの、連絡を取り合って会う機会が月に何度かあったという。オビトがカカシと一緒にいたこともあり、自然とリンもその中に混ざっていた。
大学以前のカカシを知るリンにとっては、彼があまり人と常につるむような性格ではないことに気付いていた。現に、オビト以外の誰かと一緒にいるところを見たことがなかった。そんな状態だったのだから、女子といるところなんて想像もできなかった。女子との繋がりがないのはもしかしたら男子校故に、というのもあるかもしれないが。

「でもリンちゃんとは仲良しだよね?」
「オビトが中間にいるからね。私とカカシだけだったら、仲良しって言うのかなあ。みたいには・・・」

―オビト。
その名前に、紅茶を飲むの動きがぴくりと止まった。
オビトはリンのことが好きで、リンはカカシのことが好きだ。切なくも片側しか向かぬ矢印の先。「好き」の方向の違い故にもしかしたらどちらも上手くいかないかもしれない。けれどどちらも好きな先輩だからこそ、その恋路が上手く行くことを願っている。その結果がどうなるかは分からないが、それぞれにそれぞれの幸せが訪れてほしい。
本気で誰かに恋焦がれる瞳をよく知っているのは、他ならぬ自身なのだから。

「あ、、噂をすれば本人登場よ」

自分たちがいる側とは反対側の扉からやってくるカカシを見つけて、リンは目を細めた。も促されるままに後ろを振り返る。カカシが通ったあと、周りの女子からなにやらひそひそと声があがっては、彼女たちの視線が銀髪を追っていた。楽しそうに、はたまた嬉しそうに小声で騒ぐ女子たちの姿が、の心を捉えて放さない。

(・・・)

あの姿を、彼女はよく知っていた。そう、ミナトに対する反応と全く同じなのだ。
若くて顔も整っている彼は特に女子学生からの人気が高い。彼の研究テーマが複雑だからか、ゼミ生になりたいという者こそ少ないが、それでも授業評価がレポートや出席点のみの彼の講義はいつも、今の視線の先にいる女子のような学生で溢れかえっている。

「人気あるのよね、カカシって」
「・・・本気で好きじゃないから、ああやって騒げるの」
「え?」
「リンちゃん、私リンちゃんのこと応援してるから。それじゃ急用思い出したから、またね」
「え、?あ、ちょっと!・・・行っちゃった」




*



「や、リン」
「カカシ」

リンに気が付いたカカシがスタスタと彼女の元に寄ってきて、向かいの席に腰を降ろす。先ほど黄色い声を上げていた女子たちは、今もちらちらとこちらを盗み見はしているが、その殆どがもう既に自分たちのことに夢中だった。

「今もいなかった?」
「あ、うん、いたんだけど、用事があるって」
「・・・そっか、リンは今暇なの?」
「うん、四限まで空き」

するとカカシは「俺も何か飲もうかな」と言って財布だけ持ち商品ケースへと歩いていった。
その後姿をリンが見つめる。
何度こうして眺めてきただろう。その愛しい背中を。



(いつもそう、あなたの瞳に、私はいない)











(2015.3.30) 
(2016.3.20)              CLOSE