「またね・・・って聞こえないか」
「ほんとにごめんねリンちゃん」
「ううん私の方こそ。無理に連れて帰るのも悪いし、をよろしくお願いします」
「また女子会しようってばね、それじゃあナルト、駅までちゃーんと見送るのよ」
「へいへいわかってるってばよ!」

バタンとドアが閉まる。駅までならすぐに帰ってくるからとクシナが鍵を閉めずにリビングに戻ると、そこには相変わらずソファで気持ち良さそうに丸まるがいた。
ジャンキーなドーナッツを食べたのだから、夕飯もジャンキーにしてしまおうとデリバリーのピザを頼んだまでは良いものの、女子3人と途中帰宅した中学生(最初はうげげ、とした顔をしていた)と楽しくきゃっきゃとはしゃいでいたら自然とワインに手が伸びていたのだ。スーパーでも手に入るようなリーズナブルなものだが、大事なのは誰と飲むか、で、一杯飲めばまた一杯、飲めば飲むほど気持ちが良かった、のだけれど。

「にしてもこの子があんなに飲むなんてねえ」

何か最近嫌なことやストレスの溜まることがあったのだろうかとも考えたが、そういうことは一言も漏らしはしなかったし、むしろどちらかと言えば楽しくてグラスに手を伸ばすのが止まらないといった様子だった。とはいえ、いつもの彼女ならば自我が保てなくなるほど飲んだりはしないのだから、クシナからしてみればこんな風にミノムシみたいな状態になったを家に帰すのはどうにも憚られてしまった。

「ほ〜らってば、そこで寝たら風邪引いちゃうってばね」
「ん〜クシナさあん」

一人じゃ起きれないとばかりにがもぞもぞと手を伸ばせば、クシナは困ったように笑って彼女をソファから引き上げる。すっかり寝癖がついてしまったのか、髪はぼさぼさだ。抜けきらないアルコールのせいで目元は赤く、あまり目が覚めてないのか今にもまた倒れそうだ。よしよしと撫でるように髪を整えると、言葉にもならない呻きが上がる。

「も〜これじゃ危なっかしくてほんと家に帰せないわねえ」
「だあいじょうぶちゃんとリンちゃんとかえるから」
「な〜に言ってるってばね、さっきリンちゃん見送っちゃったんだから」
「ええ〜、あれ?そうなの?」
「もう、ったらどうしちゃったの今日は」

目線を合わせるようにクシナが軽くしゃがむと、クシナさん、との腕が伸びてくる。ぎゅうっと抱きしめられたクシナは、その力強さ故に口を噤み、まるで赤子をあやすが如く背中に腕をまわしてぽんぽんと叩いてやった。自分が酔っぱらって彼女に介抱されるとき、もしかしたらこんな感じなのかもしれないと思わず笑みが零れてしまう。

「ふふふクシナさんあのね、だいすき、いつもありがとお」
「え〜なあに突然、私も大好きよ」
「ん〜だいすき」
「可愛いけどほんとに風邪引いちゃうってばね」
「だあいじょうぶ」
「はいはい、さ、ほらベッドに行くわよ。ミナトのベッド使ってね」

ミナト。その三文字にの手が一瞬緩んだ。しかしそれは本当に文字通り一瞬のことで、その代わり、寝ぼけまなこだった瞳にやや光が戻る。抱き着かれているクシナにはその表情を知ることはできなかった。

「・・・やだ、クシナさんのおふとんがいい」
「あ、ミナトもそろそろ加齢臭?」
「そんなんじゃ、ないけど」
「ふふ、じゃあ二人で一緒に寝ましょ」
「ん」


ふたたびぎゅう、とクシナに抱き着く手に力が籠る。
それは愛おしそうに、大切なものを閉じ込めるかのように。









(2020.5.24)              CLOSE