カップルが放課後にデートに出かけるなんてよくあることだ。それが知り合いのカップルだった、なんてこともそう、よくある日常の一つ。
図書館棟3階の窓際から見える、短冊街の方へと歩いていく二人―アスマと紅―の背中を、は肩肘をつきながら眺めていた。そういえば今日は彼女は念入りに化粧をしていた気がする、なんてことを思い出せばなんと微笑ましい光景だろう。

(・・・あ、手つないだ)

学校の傍ということを気にしていたのだろうか。しばらく歩いたところで二人はそっとどちらからともなく手を絡めあって歩いていく。
その後姿からは幸せが漂っていて、の双眸も次第に細められる。

(ほんとお似合いだなあ)

紅は目鼻立ちがはっきりしているからか、大抵の人間から第一印象がキツめだと言われることが多い。事実あっさりとしたタイプで姉御肌的でもあるが、根はとても乙女だ。それは恋人であるアスマも同じで、雄々しく雑な面もあるが、プレゼントと共に彼女に贈る花を時間をかけて選んでいたりとロマンチックでもある。そんな二人が似合わぬわけなどどこにもない。

(・・・)

小さくなっていく二人の背を、は自身の指で作ったカメラにおさめていると、ふと脳裏に浮かんだのはミナトの姿だった。

『この前新しい雑貨屋さんがオープンしたんだって、行ってみようよ』
『ん、いいねそれ。の部屋に似合う何か探そう?』
『何がいいかな、クッションとか?』
『あ、オレクッションにはちょっとうるさいよ』
『えーなにそれ』

―もしミナト先生が先生じゃなくて同い年だったら。同級生だったら。奥さんなんていなかったら。私にも、望みはあったのかな、なんて。
あのきらりとした輝きが自分だけに注がれる。波に揺られるような、柔らかな風にそよがれるような、体内の組織全てが新しく生まれ変わってまるで空だって飛べそうな。
それはなんて、なんて幸せなことだろう。

(・・・なんちゃって)

はあ、とため息を一つ。痛い妄想だ、とその映像が崩れていく指カメラと共に泡になって飛翔する。
いつまで自分はそんな子供じみたことに現を抜かすのか。しかし出口などどこにあるのだろうか。そんな愚問愚答を繰り返す日々。

(ばかね、ほんと)

ちらりと隣を盗み見れば、まだ夢の中にいるのだろう、カカシが腕を枕に突っ伏している。分厚い本も開いたままに下敷きにされたままで。

「カ、カ、シ」

小声で囁いてみるが起きる気配はない。寝息も立てず、ただ背中が呼吸で規則的に上下するのみ。

「きっと、気付いてるよね」

自分の思いに。その確信がにはあった。もとい、ミナトへの想いが露骨だということの自覚が彼女にはあった。
察しのいい友人のことだ。もうとっくの昔に理解していたのだろう。けれど彼はそれを絶対に口にしたりはしない。思慮深い彼だからこその振る舞いだ。
心地よい距離感。心地よい熱量。心地よい関係。

「・・・優しすぎるよ、カカシは」












(2016.8.21)              CLOSE