「あれ、じゃん、おーい」

文学部の研究棟。とある研究室から出てきた後輩を発見したオビトが、彼女を帰すまいと呼び止める。
拱きするオビトに気が付いたは、誘われるままに彼の元へと歩み寄った。どうやら彼は給湯室へ行くらしいことがその見た目から理解できた。彼は空になった湯飲み四つと急須をトレイに乗せていた。

「何してたんだ?」
「お叱りを受けてました」
「お叱りィ?」

すっとんきょうな声を上げる一つ上の先輩に、は困ったように笑ってみせる。

「前の時間遅刻しちゃって、一番前しか座る席なくって、そしたら先生に睨まれて、教卓にあるプリントとファイル研究室まで持ってこい〜って」
「うっわ嫌がらせじゃん」
「遅刻した私が悪いんですけどね」
「アイツ意地悪で有名だもんな、お〜よしよし可愛い後輩よ!」
「きゃーちょっと!頭!もみくちゃにしないでください!」

互いにゲラゲラと笑いながら給湯室に辿り着くと、オビトは袖を捲くって水道の蛇口を捻った。思った以上に勢いよく水が流れてしまったからか、彼は圧を和らげるために少しだけ捻りを戻す。そしてそれぞれの湯飲みに水を溜めている間、濡らしたスポンジに洗剤を垂らし、何度か揉んで泡立ちを良くさせるのだった。
彼手伝いをしようとしたは、直ぐに洗いあがるだろうそれらを、近くに干してあるタオルを手に取り待っている。

「なあ、最近リンと会った?」

急須に溜まった茶葉を三角コーナーに捨てながらオビトが言った。
―リン、それはオビトと同級生の女子で、やカカシの一つ上の先輩だ。去年三、四年合同のミナトの演習で班を組んで以来、彼らは頻繁に会っては町を散策したり食事をしたりしていて、聞けばオビトとリンは中学校時代の同級生だという。そのうえオビトとカカシは同じ高校出身で、先輩後輩という間柄でもあった。(本人同士は腐れ縁だと言い張っているが。)

「昨日、夜ご飯食べに行きましたよ」
「マジ!あ、あのさ!リン、俺のこと何か言ってた?」
「え?えーっと」

はて、何か言っていただろうかとは昨夜のことを思い返してみる。
昨日彼女はリンと夕方に短冊街で待ち合わせて、居酒屋の半個室の席でじっくりと色んな話をした、のだが。

「うー、オビト先輩の話はこれといって?」
「俺の悪口でもいいから!」
「え、話してませんよそんなこと」
「ちょっとしたことも?」
「・・・そ、そうですね」
「ほんとに?なんにも?話してない?」
「せ、先輩近すぎ・・・」

リンのことを聞き出そうと前のめりになって食い入るようにを見つめていたオビトは、そう言われるや否や破竹の勢いの自身に気が付いたのか、端から見たらキスを迫っているような体勢からばっと姿勢を元に正す。

「・・・オビト先輩って、可愛いですよね」
「は!?どこが!?」
「そうやって耳が赤くなるところ」
「おっお前、もしかして俺のこと・・・!?」
「違います」
「悪いな、俺にはリンという心に決めた人が・・・!」
「だから違いますって」
「くっ、俺はお前に湯飲みを差し出すことしかできない」
「あはは、拭きますよ、拭きますって」

オビトはいつでも真っ直ぐな青年だ。一途なところも、情に厚いところも。誰からも好かれるような気さくな性格と優しさが彼にはある。そんな人間だからこそ、は彼の想いがリンにいつか伝わることを願っていた。



(これぐらい、私も素直になれたらいいのに)












(2015.3.26) 
(2016.3.20修正)              CLOSE