「やだどうしたのおばあちゃんその荷物!」

家でがのんびりと過ごしていたところ、インターホンが鳴ったので出てみれば。
そこには彼女の祖母が眉間に皺を寄せ、なにやらドスの効いた面持ちで立っていた。鍵を持って出たはずなのに、どうやら沢山の荷物のせいで一人では開けられなかったらしい。
そのうえその荷物とやらは重いらしく、が祖母から受け取るとがくりと肩が落ちた。

「な、何買ってきたの、重たいんだけど・・・」
「小豆だよ、二キロで五百円だったもんだからついねえ」
「ついって」
「それにほら、もち米も。明後日町内会の集まりもあるしね、お赤飯とかおはぎとかにして持っていこうかと思って」
「もう、連絡してくれたら手伝いに行ったのに。倒れたらどうするのよ」
「何言ってんだい、私はまだまだ元気ですよ、今日だって信号駆け抜けてきたんだからね」
「う、うそでしょ・・・」

ふんっと鼻息荒く自慢げに孫を見やると、祖母は草履を脱いで家に上がる。
その後姿を横目には大きくため息を吐いた。元気なのは良いことだが、祖母ももう若くはない。齢八十を越える老体だ。いつ何が起きてもおかしくはないのだから、もう少し自分の体を労ってほしいというのが孫の願いではあるものの、それでもは祖母のその生気溢れる姿が大好きだった。

「お茶淹れようか?」
「暑いから冷たいのにしておくれ」
「はいはい」

着物は女性をひき立てるから、と祖母は外に出かける時は着物以外肌に身に着けようとはしなかった。そういうステレオタイプなところがあるとはいえ、この祖母というのは中々に世の中の新しいことに関心を持っており―そう、即ち好奇心旺盛な性格であるのだが―、今はどうやらタブレットPCに首っ丈なのだった。
この機器に関してはおそらくより使いこなしているといっても過言ではない。彼女曰くタッチパネルだから使いやすいとのことで、IDさえあれば誰とでも電話が出来るアプリを使って遠くの知り合いとよく会話をしていた。

「あれ?でも町内会で何話すの?まだ祭りの時期でもないでしょうに」
「旅行だよ」
「また?この前も行ってたじゃない」
「この前のは年度が変わったからよろしくお願いしますの会で、今度のは祭りの計画を立てる前にどこかでゆっくりしましょうの会さ」

皆さん仲が良くて宜しいですこと、とは笑って盆に乗せた冷たい麦茶を、すっかり部屋着に着替え窓辺で涼む祖母に差し出した。

「はい、どうぞ」
「ありがとね。そうそう、今度は前より集まりが良くてね。猿飛さん夫婦に、コハルちゃんに水戸門のジジイだろ、あとそれから志村さんも来るんだとさ」
「えー!志村さんってあの志村さん?そういうの興味無いって思ってた」
「まあ大勢の方が楽しくて良いね、今度は砂町まで行こうってんで、そしたら向こうのチヨちゃんが案内してくれるって言ってくれたのさ、ああ今から楽しみだこと」

今にも踊り出しそうなぐらいの高揚した笑顔で祖母は楽しげに語った。
曇り硝子で軽く凹凸のあるグラスを持ち上げると中の氷が振動で揺れて、カランと涼しげな音色が部屋に慎ましやかに響いた。

「いいねえ、こういう優しい音は」
「ふふ、ゆっくり休んでね」










(2015.7.24)  
(2016.3.20修正)             CLOSE