「まさかお前が昼飯奢る日がくるとはな」
「なによその言い草。ちょっとは悪いと思ってるんだからさ」
「ちょっとだけかよ」
「オビトが言ってたよ、先輩には敬語使えってな」
「先輩ねェ、下手すりゃ俺らより子供っぽいくせによく言うぜ」

カカシは先日のオビトとのやりとりで迷惑をかけてしまったアスマに、昼食でも奢ろうと呼び出したのだが、目の前で半分以上は吸っただろう煙草を嗜む友人は―その濃い髭のせいもあり―やけに大人びて、いや、むしろそれを通り越していわゆる「おっさん」に見えなくもなかった。とはいえオビトが子供っぽいというのにはカカシも納得のいくことで、彼はすぐにムキになったり、何か嬉しいことがあると顔に出したり、涙もろかったり、身振りが大きかったり、それこそ挙げるとキリがないのだが、小学生がそのまま大きくなりましたといった風なのだ。

「きっと半袖短パンに黄色い帽子被せてランドセル背負わしたら今でも似合うだろうね」
「なんだそりゃ・・・いや、でも、確かに違和感ないかもな」
「でしょ」

そしてカカシはまだ湯気の立つコーヒーに口を付けた。すると二人の視界にエプロンをつけた店員が入ってきて、その店員は少し高めの声で「おまたせしました」と笑顔を付け加えて言った。
アスマの目の前に置かれた、厚い肉の乗っている、まだ油の跳ねる音が勢いよく鳴る鉄板を、カカシは死んだ魚のような目で注視する。万年金欠の学生にとってファミリーレストランは非常にありがたい存在ではあったが、遠慮を知らない(裏を返せばそれができる間柄とも言えるのだが)友人が頼んだものはカカシの財布を十分に寂しくさせたのだった。
反対にカカシはといえば二種類のサンドイッチ―ハムとチーズとレタスの、そしてゆで卵をマヨネーズで和えたものとレタスとトマトの―のみで、昼食というよりは軽食に近い。

「ん?お前はそれだけか?」
「お前がライスを大盛りじゃなくて普通にすればイカフライぐらい頼めたよ」
「おお、悪いな」

灰皿に短くなった煙草の先を押し付けると、アスマは目を輝かせてカトラリーケースからナイフとフォークを取り上げた。
ため息にも満たない諦めを含んだ息を吐いたカカシは、ご満悦そうに肉を頬張る友人から、窓越しにのどかな休日を過ごす人々の群れを瞳に移し変える。
天気も良く、気温も高すぎない。出かけるにはもってこいの日和だ。

(ん?)

通りにある横断歩道が青から赤に変わろうとしたその時だった。
両手に沢山の荷物を抱えた老婆が、およそ老人とは思えぬスピードで駆け抜けていったのだ。
元気なおばあさんだ、と思わずカカシは笑わずにはいられなかった。

「嘘でしょ、凄いね」
「?」

口をもごもごと動かしながらアスマは頬杖を付き外を見やる友人の方に顔を向けた。

「なんかあったか?」
「いやー今ね、凄かったよ、両手に沢山荷物抱えたおばあさんがさ、赤信号に変わる寸前に猛スピードで駆けてった」
「急に心臓止まんなきゃいいけどよ」
「お前ね・・・、縁起でもないこと言うなよ」










(2015.7.5)
(2016.3.20修正)               CLOSE