それでもね、いくらなんでも一年半って長すぎると思うんです。だって先輩って、言う時ははっきりと口にするじゃないですか。なのに恋路になると奥手になってしまうってことなんですか?まあそれはそれで人間味があるというか、完璧そうな先輩にもそういうところがあるって新たな一面を知れて僕は嬉しいですけど、え?気持ち悪いとか言わないでくださいよ。でもこのまま何も言わずに大学を卒業するまで片思いを続けるって訳でもないんでしょう?ならやっぱりここはガツンと告白してみましょうよ、でしょう先輩?大丈夫ですよ、先輩は口が上手いですし何より先輩に告白されて断る女性がいるだなんて思えませんしね、ハハ、ちょっとどころかかなり羨ましいですけどね、僕だって、僕だってねって、ああいやすみません、まああれですよ、上手くいった暁には是非僕に先輩の愛しの君をご紹介頂ければと! などとマシンガントークを披露してみせた後輩は、時計をちらりと見やると慌ててエプロンをつけて休憩室を後にした。そんな奴を尻目に荷物を整え店を後にすれば、バイトが終わった時はまだ綺麗な青空だったのに、もうすっかりと夜が顔を出していたのだった。 ようやく訪れた静寂を楽しみたいというのに、脳内を先ほどのテンゾウの言葉がぐるぐると回って仕方がない。余計なお世話だよ、と思いながらも確かに一年半と数字で考えれば、この片思いの期間により重みが増す気がする。 口にすべきかしないべきか―…。 (・・・勝ち目なんてないし) いや、勝ち目以前の問題ではない、なにせ相手は既婚者だ。そもそも成り立つはずも無い試合のリングに立たされているようなものだ。 それでも万が一、万が一ミナト先生がその気になってしまったら?彼は二枚目だし、性格は良いし、頭も良いし、経済力もあるし、非の付け所がないぐらい完璧な人間だ。 それに問題は先生だけじゃない。 告白したら、きっともう友達ではいられないことも、だ。 の気持ちが先生の方を向いている以上、自分の方に振り向くことはないし、振られて何もなかったようにいられるほど図太い訳でもない。 傍にいられないのが怖い、なんて、幼稚な考え。 何も言わなければ、ずっと隣に―…。 (・・・ちがう、ずっとなんて、ない) いつか誰かが言っていた。人間みな誰しも死ぬものなのだと。早いか遅いかの差しかないと。 そうして父も、去っていった。 だから余計に億劫なのだ。 下手に動いて、失ってしまうのが。 少しの間しか一緒にいられないと解かっているのなら、それを壊してしまいたくはない。 (めんどくさい人間だな俺も) 冷めたふりして、クールなふりして、案外自分は執着心が強いのだ。 オビトのように素直になれたら。真っ直ぐに気持ちをぶつけることができたなら。 (・・・に、会いたい) (2015.6.28) (2016.3.20修正) CLOSE |