(・・・聞きそびれちまった)

(アスマが言ってたこと)

(・・・恋愛感情はない、か)

(カカシのこと、少しは解かってたつもりだったのに)

(解かってた?ちがう、俺は・・・)


(俺は)


(俺はただ)


(ただ・・・)



「・・・ト、オビトってば!」

高く澄んだ声がオビトを潜思の世界から引っ張りあげる。
はたと我に返った彼が目を真ん丸に広げ、声の主を見入るが、その数秒後に何が起きたのかを理解しようとようやく脳が働きだす。

「もう、どうしたの?授業終わっちゃったよ?」
「あ・・・リン・・・」

心配そうにこちらを見つめる友人以外に最早教室に残っているものはおらず、その静寂に教室が幾分普段より広く感じられた。

「考えごと?何かあったの?」
「え、いや、なんでも」
「・・・ほんとに?」
「お、おう!夜何にしよっかな〜って、昨日大家さんから明太子貰っちゃってさ〜、焼いてご飯に乗せるか生のまま乗せるかそれともパスタにするかとか色々考えてたら、つい・・・へへ?」

おどけてみせたオビトにリンは呆れながらも、いつもの友人とさして変わりがないことに安堵の笑みを零す。同じく一安心したオビトも、机に散らばっているノートやら文具やらを片付け始め、乱雑にカバンの中へと放り込んでいったのだが、ファイルに入れ忘れたプリントに手を伸ばした、その時だった。

「ッて!」

ぴりりとした痛みに一瞬顔を顰め、条件反射でびくりと跳ねた指先を見やれば。

「やだオビト、血が出てる」
「うっわー・・・もー、紙ってたまに凶器だよな」
「こういう傷って地味に痛いのよね」

小さな傷とはいえ生じたばかりで痛いであろうに、リンにさらなる心配をかけたくないオビトは「大丈夫大丈夫」と、気丈に振舞ってみせた。だがそんなのお見通しだと言わんばかりにリンはポーチから絆創膏を一枚取り出し、包みを剥き始めると、じっとオビトに視線を送った。

「ほら、手出して」
「あ・・・」

どきり。自分よりも細く白い繊細そうな指先が、触れている。

(・・・ああ、そういえば)

初めて会った、あの時も―…。

「はい、これでよし」
「・・・リン」
「ん?」

くすくすと、笑う姿が眩しくて。

(やっぱ可愛いなー、リンは)

その笑顔が、どれだけ自分の支えになったことか。

「へへ、サンキュな」
「おっちょこオビトめ」







(人付き合いの下手糞なあいつが、少しずつ心を開いてくのが、嬉しかっただけなのに)

(それなのにいつのまにか、嫉妬してたんだ)

(リンの視線が)

(声が)

(あいつへ向いてしまうことに)


(俺はただ)


(その思いに駆られて、あいつのこと)


(・・・けど、俺だって相合傘してーよ、馬鹿ヤロウ!)










(2015.6.28)  
(2016.3.20修正)             CLOSE