とある日の昼、学食にて。
雑踏に紛れた一角でカカシとアスマは昼食をとっていた。あの授業がああだったとか、次の授業はどうだとか、バイトが面倒くさいだとか、そんなとりとめのない話をしていると、彼らの視界に一人の男が入ってくる。

「ん?オビトじゃねーか」
「悪いなアスマ、ちょっとこいつ借りるぜ」
「え?俺?」

やってきた男―オビトは無愛想な顔をしており、どこか張り詰めた雰囲気を持っていた。
二人は明らかに平生と異なる友の空気を即座に読み取る。それはまるで静かなる闘志を持っているといった風で、決して食堂に来たら友人を見かけたから声をかけにきた、などという簡単な理由ではなさそうだった。
光の無い瞳をしたオビトが強い力でカカシの腕を掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。なす術も無いままに連れて行かれる友人の後姿を、アスマは呆然と眺めるしかなかった。



*



「おいオビト、なんなんだよ一体」

食堂を出てすぐの自販機の裏側に追いやられたカカシが、いい加減にしろとばかりにオビトの腕を振り払う。
オビトは依然として不機嫌な顔のままだ。

「・・・カカシ、お前」
「な、なに」

ごくりとカカシが生唾を飲み込む。そして普段より低い声で黒髪の友人が口を開いた。

「お前リンと付き合ってんのか?」
「は?」
「俺の友達が見たんだよ」

胸倉を掴みかねない勢いでオビトが目の前の友人に詰め寄った。

「お前とリンが一緒に歩いてるとこ!」

その必死な形相に中てられてか、カカシは直ぐに返事をすることができなかったが、この状況とは反対に頭はやけに冷静で、取り乱す勢いのこの青年が何に怒りを覚えていて、何を言おうとしているのか、それはすぐさま理解できた。

「一緒にって・・・別に今更珍しいことじゃ」
「それだけなら俺だって怒らねーよ、けどな、相合傘してたんだろ?」
「あ、相合が・・・ああ、アレか」
「くそっやっぱほんとかよ・・・ッ」

オビトはこの話を学科の友人から聞いた時、それが嘘であって欲しいと願っていた。告白こそできていないものの、ずっと前から慕っていた相手だ。その想いはカカシも十分に気が付いていることだった。それなのに、彼が自身の知らないところでそんなことをしていたなんて。

「いやでもあれは」
「どういうことなのか説明してもらおうじゃねーか!」
「だからあれは」
「第一俺があいつのこと好きって知ってるくせによ!」
「俺の話を」
「こそこそ隠れて二人は付き合ってましたってか?」
「オビト!」
「何も知らない俺を影で笑ってたってーのかよ最低だなお前!」
「ッいい加減にしろよオビト」

もはや最初の眼光鋭い威圧感は消え去り、そこにあるのは分別を失った子供そのものだ。
弁解する暇を与えるどころか暴言を吐く友人に、苛立ちを押さえることができなかったのか、カカシが声を荒げてオビトの胸倉に掴みかかった、その時だった。

「おいお前ら何してんだよ」

聞き慣れた声に二人の体がピクリと止まる。
油の足りないロボットのように顔を声の方へ向ければ、そこにはカカシの荷物を携えたアスマが立っていたのだった。










(2015.6.8) 
(2016.3.20修正)              CLOSE