「・・・電話ぐらい出ろよな」

息を切らしたオビトがやってきたのは、体育館裏の自販機の横だった。
カカシは壁に身を凭せかけていて、おそらく自販機で買ったのだろう小さな紙パックのコーヒーに口をつけながら、自分に詰め寄る友人に半目でじとりとした視線を送った。

「・・・」
「・・・」

いったい何から話せばいいのか。何をどう切り出せばいいのか。
整理できないけれども口にしたいものの数々が、オビトの脳内をぐるぐると回っては気持ちを焦らせていく。そんな友人の考えを知ってか知らずか、カカシは小さなため息をついて今度は視線を地面に落とす。するとオビトの嫌いな沈黙がどんどんこの場に広がっていくようだった。
しかしカカシがストローを吸う音に鈍い空気音が混じりだし、紙パックがへこんでいく様を見て、また彼がどこかに行ってしまいそうな気がしたオビトは、それが現実にならないよう咄嗟に言葉を紡いだ。

「・・・わ、悪かったな」

第一声が思いのほかストレートな謝罪だったことに驚いたカカシが、一瞬だけ目を見開いた。そして再度友人を見やれば、彼からはどこか不機嫌ながらも気恥ずかしさが窺えたのだった。
汗で前髪が張り付いているところを見ると、自分を探すためにかなり走ったのだろう。

(・・・そうなんだよな)

カカシは心の中で思った。喧嘩の度に歩み寄ってくるのが決まってオビトからであることを。
今回はオビトの方が度を越していたのはもちろんだが、彼は自分の非を認めてちゃんと謝ることができる人間なのだ。反対にカカシは一度こじれてしまったものを修復するのが下手なタイプだった。それは心のどこかで人間関係というものが、どうせいつか切れてしまうものなのだと思っている節があるからかもしれない。だからこそ、どこまでも自分を切り捨てようとしないオビトがカカシにはなにかキラキラしたものに見えて仕方がなかったし、そんな彼だからこそ友人としての関係が続いているのだ。売り言葉に買い言葉で喧嘩に発展することも多々あるが、裏を返せば互いを認め合っているからこそ喧嘩が出来るということなのだろう。

「・・・何とか言えよ」
「・・・ま、もう怒っちゃいないよ」
「あのよカカシ、お前さ・・・」

オビトは「のことが好きなのか?」と問うつもりだった。
しかしカカシは彼の言いたいことがリンのことだと予想し、みなまで言う前に口を開いてしまった。

「リンのことは人として好きだけど、恋愛感情はないから」
「あ、えっと」
「?」
「い、いや、・・・俺もカッとしてたっていうか」
「もう良いって」
「それよりお前なんでこんなとこでコーヒーなんか飲んでんだよ、自販機ならもっと教室側にあんじゃねーか」
「・・・」
「・・・やっぱ俺から逃げるためかよ〜、はあ」
「ちがう」
「え?」

カカシは一度自販機を眺め、間を置いてから答えた。その声音に憂いが隠れていたことを、一体誰が気付けただろうか。

「ここにしかない飲物を探してたんだけど、もうなかったんだ」

それが何を意味しているのか、オビトにはさっぱり解からなかったのだった。











(2015.6.21)  
(2016.3.20修正)             CLOSE