授業が始まるから、とアスマはカカシに荷物を渡し先に行くように指示を出す。
カカシは黙ってそれを受け取ると、オビトともアスマとも目を合わすことなくその場を離れてしまった。まるで風のように、音もなく。
残された二人の間には気まずい沈黙が流れたが、それに耐えられるほどオビトは我慢強い人間ではなく、第三者が何をしてくれるんだと言わんばかりに自分よりもいくぶん背の高い男を睨みつける。

「・・・おいおい、そんなに睨むなよ」
「何で止めたんだよ」
「お前の勘違いだからだよ」
「はあ?」

素っ頓狂な声をあげたオビトにアスマは大きなため息をついた。

「こんなん言うアレでもねえけどよ」
「・・・なんだよ」
「お前がリンしか見てないように、あいつにもしか見えてねーんだよ」

再度アスマがため息をつく。
人の恋路に首を突っ込むことほど野暮なことはない。とはいえ殴り合いの喧嘩にまで発展するとなれば話は別だ。
最初から二人の話を聞いていたわけではなかったが、中々帰ってこないカカシに荷物を渡すために後を追ってきてみれば「リン」の名前が聞こえるではないか。普段仲が良い連中だ、楽しくどこかへ行く計画ならば何も言わなかっただろう。だが二人を包む空気の冷たさに、アスマは思わず声をかけずにはいられなかったのだった。

「な、なあアスマ、それって」
「・・・あとは二人でどうにかしろよ」

胸ポケットにしまった煙草を取り出しながら、アスマは「じゃあな」と一言呟き踵を返す。
その大きな後姿に思わずオビトが前のめりになる。

「え、あ、ちょ、待てよ!」

動揺を孕んだオビトの声に振り返ることなくアスマは手をひらひらと振り、雑踏の中へと姿を消してしまったのだった。

「・・・カカシが、を?」











(2015.6.8)
(2016.3.20修正)               CLOSE