中学生の頃からオビトはムードメーカーだった。元気一杯で、おちゃらけてみせることも上手で、とにかくクラスの中で目立つ存在だったのは間違いない。
彼と知り合うようになったのは中学二年生の頃で、あの時私は登校途中だった。彼は部活の朝練習で学校周りを走っていて、雨が降った次の日だったせいか、通りかかった私の目の前を走り去る際、濡れた葉っぱに足を取られて盛大にこけてしまったのだ。きっと私が思っている以上に彼は恥ずかしかったに違いない。私と目が合うと彼は顔を真っ赤にしていて、でも本人には申し訳ないけれど、それはそれは見事にこけたものだから、私は笑いを堪えるのに必死だったのをよく覚えている。膝から血が出ていたので持っていた絆創膏を彼に渡したのが始まりで、その出来事のあとはよく顔を合わせることもあったし、話をすることもあった。そうして打ち解けると家が近いことも解かり、時間帯によっては偶然一緒に帰ることもあった。
部活を頑張る少年は、時折おっちょこちょいではあるものの、人に対してどこまでも誠実で優しい人間だった。

そんな彼は「男を磨くために男子校に行く」などと突拍子もないことを言い出し、そのまま宣言通り男子校へと進学していった。とはいえもうすっかり仲が良かった私たちは、連絡を取り合ってはよく会うことがあった。
高校に進学して一年と少しが過ぎようとしていた折に、私はオビトを介してカカシと知り合うことになった。オビトとは全く真逆であると、それが彼の第一印象だった。
聞けば一つ年下の後輩で、同じ委員会なのらしい。カカシはとっつきにくい人間で、自分から何かを言うことはなかったから常に私が話を振っていた気がする。でもそれがいつしか彼から自発的な会話が始まるようになり、少し距離が縮まったのだととても嬉しかったのだ。

カカシという人間はとても不思議な人だった。物事に無頓着そうに見えて意外と熱いところがあったり、冷酷そうに見えて優しいところがあったり。
いつから惹かれていたんだろう。
でも気が付いた時にはもうカカシしか見えなかった。

だけど、カカシの前では自然に笑うことができない。
それはきっと、私がカカシを好きだから。
カカシの目に自分がどう映っているのかを気にしてしまうから。
変な顔してないかな、とか、メイク崩れてないかな、とか、目やについてないかな、とか。
もう本当に何度「些細な」という形容詞を重ねても足りないぐらい、それぐらい細かいところが気になって仕方ないのだ。
カカシと食事をする時はいつも、ドキドキして上手く食べることができない。
口の開き方とか、箸の持ち方とか、何杯水を飲んだとか。
カカシの所作が綺麗だから余計そんなことを考えてしまったのかもしれない。
家に着く頃には鉛のように疲れていて、それはそれはぐっすり眠ることができた、なんて皮肉みたいだ。

オビトの前では自然に笑うことができるのに。

おかしいな。

好きになるって、どういうことだろう。

苦しい思いを続けること?

張り裂けそうな心臓に耐え続けること?

それとも自分が自分でいられること?










(2015.6.8) 
(2016.3.20修正)              CLOSE