「と、こういう感じでゼミを進めていこうと思うから、興味があったら是非来てね」

毎年三年生向けに行われるゼミの説明会が、それぞれの教授や准教授の研究室で日に三回に分けて行われており、昼過ぎまでアルバイトをしていたカカシは、前々から入りたいと思っていた波風ゼミの最終の回に参加していた。

「ん、じゃあちょっと早いけどこれで終わるね。みんなお疲れさま!」

話が終わるや否や参加者たちが荷物を持って部屋を出ていく。それに倣うようにカカシも荷物を持ち上げようとしたところで、この部屋の主にそれを憚られてしまったのだった。

「あ、カカシ。実はね」

「実は」なんて、なにかあることを告白する時にしか使わない言葉をあえて使うなんて、彼は一体何を言おうというのだろうか。
カカシに若干の緊張が走るとともに、脳裏にふとの姿が浮かびあがる。
もしかして、以前もこのゼミなのかと聞いたあのことかもしれない、と。
ごくりと唾を飲み込み、銀髪の青年はまじまじと青の瞳を見つめた。

「実はね、自来也先生が今晩家にくるんだ」
「・・・へ?」

発された言葉は全く明日の方向から飛んできたもので。
本来なら拍子抜けと言っても過言ではないのだが、「自来也」というワードはカカシにとって意味のあるものだったらしく、今まで思い描いていたことなどとうに彼方へと押し出されてしまったのだった。

「じ、自来也先生って、あの作家の自来也先生ですか?」
「ん、俺の先生でもあるお方でね、取材旅行から帰ってくるっていうからご飯でもって。カカシ、自来也先生の本をよく読んでるんだって?だから一緒にどうかなって」
「え、お、俺ですか!?」
「何か用事でもあった?」
「いえ、なにも、そ、その、ご迷惑でないのでしたら、是非・・・!」
「もちろん!超特急で仕事を終わらせるから、少しだけ待っててくれるとありがたいな」

新しいおもちゃを与えられた子供のように、はたまた豪勢な食事を目の前にした時のように、カカシの目はきらきらと輝いていたのだった。










(2015.6.1)
(2016.3.20修正)               CLOSE