「地図だけで良かったのに」
「いいの、私も酔いを覚ましたかったし」
「・・・一人で帰れる?」
「これでカカシが来たら意味無いでしょー」

くすくすと笑いながらは縁石の上へと飛び乗った。よくある四角い縁石ではなく、尖端が丸みを帯びているタイプのため、彼女は両腕を外に伸ばしてバランスを取りながら歩いている。
その一方でカカシは酒の抜けていない彼女が落ちはしないかと気にかけながら、夜の住宅街の静けさを駅に向かって歩を進めていた。

「おいしかったな〜、特にあの、なんだっけ、お土産の、コリコリしたやつ」
「ミミガー?」
「そうそれ、耳がグワー!」
「はは、なにそれ」

時折街灯に照らされるの頬にはまだ赤みが差しており、まだどこかふわふわとした様子だ。

「あと海ぶどうでしょ、ソーキの瓶詰めに、ちんすこうに・・・」
「沖縄のばっか」
「また食べたいな、ここらへんに売ってないかな」
「行った方が早いんじゃないの?」
「確かに!」

自来也が持ってきた土産は沖縄に限ったものではなく、国外のものもあったのだが、どうやらは沖縄の味を気に入ったらしい。

「・・・あのさ、夏行く?」
「へ」

はピタリと足を止めた。
まじまじとこちらを見てくる彼女に、カカシは自分が言った言葉の意味に気が付く。
楽しそうに話す彼女を可愛いと思ったからなのか、それともカカシ自身にも残る酔いの魔法がそうさせたのか。どちらかは解からなかったが、気付いた時にはもうカカシの口からその台詞が放たれていたのだ。
今自分はなんてことを口にしたのだろう、これってどう考えたって旅行に誘ったってことじゃないか、と。

「あ、その、えーとさ、ほら、オビトとか、リンとか、誘って」

(必死に取り繕ってる感満載なんだけど、俺)

決して二人で行こうなんて意味ではないとの主張がに伝わったかは解からない。というのも彼女からの返事はまるで違うベクトルからやってきたのだから。

「珍しいね、カカシが旅行したいって言うなんて」
「え?」
「だってあんまりそういうの言わないから」
「あー・・・」

確かに、とカカシは思った。
興味がないわけではないが、彼はどこか無気力なところがあった。というのも人混みは嫌いだし、物欲も強いほうではない。それにどこかに出かけるぐらいなら静かに読書をしていたい。仲の良い者(といってもかなり限られるが)に誘われれば着いていくが自分から動くことは中々なかった。彼はそういう性格だった。

「なんか嬉しい、そう言ってくれるの」
「え?」

願望を普段あまり口にしないからこそ、からしてみれば彼がそう言ってくれるのが嬉しかった。
思いを口にしてくれるのは、信頼されている証でもあるのだから。

「行こう、カカシが行きたいとこ、全部行こうよ」











(2015.6.1)
(2016.3.20修正)               CLOSE