俺の愛読書、イチャイチャシリーズを書き上げた自来也先生(先生の先生だからということでそう呼ばせていただくことにした)から紡がれる話の数々はとても興味深いものばかりだった。
作家とこんなに近くで話ができる機会など滅多にない。ゴマをすったわけでも媚を売ったわけでもないのだが、ついあの場面が良かっただとか、この場面が良かっただとか、あそこはどうやって生まれたんですかとか、そんなことを言ってる内に自来也先生は気を良くしたのか、カバンから大量の土産ものの酒を取り出したのだ。それがきっかけで夕食会はとんだどんちゃん騒ぎになってしまった。
ミナト先生もその奥さんであるクシナさんも、それこそ自来也先生まで。まるで酔っ払いスイッチでも付いているかのような変貌振りに呆気に取られた俺は、その熱気に段々とついていくことができなくなって、初めて来た人様の家で世話役に回ることにしたのだが、食器をまとめたり空いた酒瓶を退けたりとせかせか動けば動くほど、クシナさんに酒を勧められ、もう十分ですと断れば次の瞬間にはミナト先生に詰め寄られお猪口を持たされる始末だ。そうして酒を胃に落すと彼らは満足して次の標的、もといの元へと向かっていた。
そんなもだいぶでき上がってるようで、ナルトと何の話をしているのかは俺の位置から聞くことはできなかったが、何かの話題で盛り上がっていた。だがそこに大人三人衆がやってくると、ナルトはげらげら笑いながらを犠牲にテレビゲームへと逃げていった。

(・・・なんか、取り越し苦労だったような)

しかしどこか異様な光景(むしろ真に異様なのはジュースだけでこれほどテンションが上がっているナルトかもしれない)に、安心したのも事実である。
当初の予定ではが来るだなんて知らなかったし―玄関で自来也先生を迎えたミナト先生とクシナさんが彼女に寄るように言ったのは言うまでもない―、彼女もいるとなればなにか張り詰めた空気があるのではないか、と思ったからだ。
たとえ彼女の口から波風家とは長い付き合いだと聞いていても、彼女は先生のことが好きだし、その好きな相手の奥さんがいるとなれば一般的には心穏やかではいられない。けれど今眼前に広がる光景にはそんな空気など全くといって良いほどなく、仲睦まじい家族そのものだ。
クシナさんがに抱きつくと、彼女はそれを受け止め自分からも腕を回してしがみ付くし、ミナト先生がの頭をわしゃわしゃともみくちゃにすればそれを嬉しそうに受け入れている。

(そういえば、こういう感じ、久々かもしれない)

誰かと食卓を囲むことも、笑い声が家の中を満たすことも―…。
そんな時、ぼんやりと眺めていた俺の視線に気が付いたのか、偉大なる白髪の小説家はニヤリとした笑みを浮かべ俺の方にやってきたのだった。

「いやあ〜すまんのォ片付けばかりさせちまって」
「いえ、俺もだいぶ飲んだので、少しは手伝わないと」

そういうと自来也先生は、「若いのにしっかりしとんなおぬし」とアルコールの匂いを含んだ笑いをしながら肩に腕を回してきて、さらに小声で囁いたのだった。

「とっとと告白せんと、あの嬢ちゃん誰かに取られちまうかもしれんぞ」
「っは?」

思わず手にしていた器を落しそうになった。驚いて目を見開けば、それとは正反対の、鋭い眼光が俺を捉える。

「ふっふっふなにせワシは恋愛小説において右に出るものはいないと謳われる小説家だからのォ!そんなのお見通しよ」
「いや、その」
「・・・ったく、ワシやミナトがあいつと話す時にじっと睨みおって。誰でも気付くぞこの青二才」
「えっ、そんな、睨んでなんか、」
「命短けし恋せよ青年ってな!」



(・・・全然酔っ払ってなんかないじゃないか、この人!)









(2015.6.1)
(2016.3.20修正)               CLOSE