「そこのおぬし!ちょいと助けてくれんかのう」

大学帰り、豪快な声に呼び止められ振り返ると、そこには一体どこから突っ込めば良いのだろう、とにかくどう表現したら良いかわからない男が立っていた。
中年にしては髪が真っ白の、とはいえ肩甲骨の辺りまで伸びた豊富な毛を束ねているせいか若くも見えるし、それに目の下に引かれている赤い線―歌舞伎の隈取にも似ている―も特徴的である。そのことからしてお洒落に気を使っているのかと思えば纏っている衣服はそうでもなさそうなラフなシャツ(アロハシャツに見えなくもない)に七分丈ほどのボトムス、それから歯の部分が幾分高い下駄。そして極めつけの膨大な荷物。それは一体どこをどれだけ回ればこんな荷物になるのかというぐらい膨大な量だ。お世辞にも普通とは言えない風貌の人間は、「ちょっと道に迷っちまってのぉ」とまたも豪快に笑いながら、自身を訝しげに見つめる私に詰め寄った。

「この辺は昔とちと変わったか?」
「・・・」
「波風という家を探してるんだが」
「え、波風?」
「ん?知っとるのか?」

ここの辺りは広いといえど波風という苗字を持つ家は一軒しかいない。先生の知り合いなのかと訪ねれば、白髪の男がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
聞くところによれば彼はどうやら名を自来也と言い、ミナト先生の先生に当たる立場だそうで、そういう話は一度もミナト先生から聞いたことがなかったものだからやけに新鮮だった。
小説を書いて生計を立てており、長期の取材旅行を終えて帰ってきたのだが、久々に教え子の顔が見たくなってこの町に寄ったらしい。出自はどうであれ、怪しい者ではないことが証明されればそれで良い。そうと解かれば今晩夕飯に誘った身でありながら道に迷ってしまった彼を、波風家へと送り届けるため私たちは歩き始める。
道中彼は沢山の話をしてくれた。その話のほとんどはクシナさんからは聞いたことがないものばかりで、それに流石は言葉を操る職に就いているだけあって話し方もまた巧みなのだった。

あっという間に目的地に着き、テレビ型のインターホンを押してみれば。

「へ」
『は』

私の声と画面に映った主の声と、ほぼ同時だったように思う。

「え、カカシ?なんで?」
『いや、それは俺のセリ、フ』

何故ここに、カカシが。
そんな疑問を考える暇など与えないといったように、今度は画面にミナト先生が現れる。

『カカシ、どうかし・・・あれ?、どうしたのっ・・・て、あー!うしろ!自来也先生!』
「おお!久しぶりだなミナトよ!」
『今行きますからね!』











(2015.6.1)  
(2016.3.20修正)             CLOSE