「げ、雨か、ついてないな」 夕立だからそんなに長引きはしないだろうが、カカシにはこのあと本屋でのアルバイトが控えていたため、雨がやむのを待つだけの余裕がなかった。さてどうしたものかとしとどに降りそぼる空を見上げれば。 「あれ?カカシ」 そんな時、ふと聞き慣れた声がカカシの耳に入る。 振り返ってみればそこにはリンが立っていたのだった。 「傘ないの?」 「あー、うん、朝晴れてたから」 「入る?」 そう言うとリンはカバンから折り畳み傘を取り出した。 「や、いいよ悪いし。それに俺バイトだからいつもと道も違うし」 「バイトなら濡れて風邪ひくほうがなおさら駄目じゃない」 「でも」 「バイト先って、まだあの本屋さん?」 「うん」 「元々どこかの本屋さんに寄ろうと思ってから、ね?」 「・・・じゃあお言葉に甘えて。あ、俺持つよ」 傘の柄を掬い上げるように持ったカカシの手をリンの両目が捉える。 肌の色の割に無骨な手だとか、腕には筋肉がちゃんと付いているだとか。 女である自分とはやはり違う存在なのだと勝手に思い知らされれば知らされるほど、己の胸の内に秘めたる思いがくすぶり出す。 (・・・肩濡れちゃってるよ、カカシ) 相槌を打つ際にカカシの方を見やれば、傘からはみ出た部分の布地の色がワントーン濃くなっているのが確認できる。 そんな彼とは反対に、すっぽりと傘に収まっているリンの肩。 (そういう優しさ、ほんとずるいよ) 相合傘は不思議だ。 どんなに周りに人が沢山いても、二人だけの空間が続くのだから。本屋になど着かなければいいのにという切ない恋心。 「カカシ、・・・私ね、」 「ん?」 「・・・ううん、なんでもない」 「?」 (2015.5.5) (2016.3.20修正) CLOSE |