※性描写があります。苦手な方はブラウザを閉じてください。なんでも許せる人向け。

















覚めきらぬ視界の中、布団から覗く後姿をぼんやりと眺め見る。自分よりもうんと白い肌、その首筋。肩口や耳の丸みに、後れ毛の残る項。跡こそ刻むことはなかったが、昨夜はそこかしこに何度も何度も口付けては、肌理の細かな肌が返す弾力を心ゆくままに楽しんだ。そんな密事の名残をかき集めながら、項になら少しぐらいいけるんじゃないかとか、肩甲骨辺りなら全然ありなんじゃないかとか思ってしまうあたり、いじきたない所有欲というものを痛感させられる。
腕の中に閉じ込めてしまいたいだなんて感情は、こういう関係になってからすっかり落ち着いたと思っていたはずなのに。触れれば触れるほど足りなくなる。隙間もないほどに肌を合わせても、好きだという気持ちがどうにも上手く伝わっていない気がして仕方がない。
とどまるところを知らぬ欲は恐ろしい。どれだけ心を込めて言葉を紡いでも、言葉は気持ちを越えられないものだ。思っているままに感情の全てを伝えられないからこそ、あれやこれやと仕草や態度を付け足すしかない人間という生き物は、なんて、なんて不器用なのだろう。


「ひゃ」

耳元に口付けて、乗り出すようにの肩口に顔を乗せる。拍子、体を震わせた彼女が首だけをこちらに返した。鼻先が頬を掠めたのがくすぐったかったのか目をきゅっと瞑らせて、けれどもどこか嬉しそうにはにかむ顔のなんと甘やかなこと。
髪からふわりと広がるシャンプーの香り。同じ物を使ったというのに、どうしてだろう彼女から香る方がずっとずっと華やかだ。

「天気は?」
「起きてたんですか?」

サイドテーブルに放り出された携帯の画面はもう消えていたが、彼女の寝起きの日課はもう把握済みだ。

「ああ、おはよう」
「おはようございます、今日は一日晴れですって」

夜は曇りみたいですけど、と欠伸混じりで再びまどろみへと沈みそうな彼女を前に、今日が休日ならばどれだけ幸せだったことかと心の中で嘆息を漏らす。だからといって、有休をもぎ取る以外に二人の休日が重なることはまずありはしない。それを思えば彼女がこうして泊まりに来るのが平日だろうが週末だろうが関係はないのだが、一度で良いから午前中を布団の中で怠惰に過ごしてみたいというものだ。そうして、もう午後か、なんて言ってのそのそと起き上がり、二人で熱々のコーヒーを飲みながら遅めの昼食を作って、あんなことがあったこんなことがあったと話をしながら食事をする。それを素晴らしい休日と言わずして、一体なんと言うのだろう。

「そうか、それは助かる」
「ずっと外なんですっけ」
「ああ」

そう、これが現実。布団を抜け出して着替え、朝食を取って愛車に乗り込む。代り映えのない日常はすぐそこだ。夢は夢のままにしておく方が、人間頑張り甲斐があるとよく分かってはいる。ハードワークは嫌いじゃない。だけれども、休日にごろごろしたいだなんてこと、そんなに難易度の高い夢でもないだけに、どうにも虚しさが募ってしまう。
もうあと数分もすれば彼女はコーヒーを淹れにでも行ってしまうのだろう。こんなにも心地の良い朝なのに。どうにもこうにも現実というやつが腹立たしくて仕方がない。

は?」

少しだけ低い声で囁き、彼女の耳たぶを食む。唇以上に柔らかいそこはほんのりと紅に染まっていた。何度も互いの家を行き来し、寝起きの顔を見るのがすっかり日常化した今でも―なにせ最初はすぐ布団に包まって顔を見せてはくれなかったのだから―、体は実に可愛らしい反応を返してくれるのだ。ふ、と笑えば漏れた鼻息がもろに耳に伝わったらしい。そうして思わず出てしまったのであろう彼女の上擦った声は、見事に己の中の導火線に火を点けたのだった。

「っ内、勤です」
「ずっと?」

指先を、あたかもピアノでも弾くかのように彼女の肩から二の腕へと滑らせる。腕から下へは触れるか触れないかの距離で一本の線を書き、たどり着いた手の甲には手のひら全体を重ねて、それぞれの指の間にそっと自身のそれを差し込んだ。親指でそろそろと彼女の親指を撫でると、きゅっと丸めてしまうのが可愛らしい。
布団の中で行われる、二人だけの秘め事。この一枚があるかないかで、いけないことをしている感とやらが倍増するのだ。それを思うとぞくりと背筋が震えた。

「そ、です、一日中」

起きないと、とばたつかせた彼女の足を上から自分の足で抑え込むと、柔らかな臀部が下腹部に当たった。良い感触だと思えば、愚息に血が集まっていくのを感じる。まあ、もともと朝ということもあってその兆しはあったのだけれど。
存在をにわかに主張するそこを、すぐ前にある尻の割れ目に当て擦る。すると腕の中の体がひくりと震えた。このぐらいが今は丁度いい。ギンギンにそそり勃たせていじわるをするというのもそれはそれで滑稽な話で、最低限の理性は残しておかねばと、頭の片隅で朝立ちはレム睡眠時に起きるらしいとか、性的感情とは無関係だとかなんとか考え始める。その傍らでは両腕をの体に潜り込ませ、双丘をやんわりと包み込んでいるのだから無意味と言えば無意味な抵抗なのだが。

「あっ・・・」

なんとも形容しがたい柔らかさ。厚い手の皮に弾力のある膨らみが乗る瞬間は本当に至福で、それだけで今日も一日頑張れる気がするのだから、男という生き物はつくづく単純にできている(とはいえそれも好きな相手のものだからこそだ)。下から掬い上げて円を描くように揉み込むと、反応よろしく彼女から声が上がった。

「昼は?庁舎にこもりっぱなしか?」
「ッん、ぁ、たっ、ぶん」
「そうか、それは残念だ」
「あ、ぅ、でも」

でも?と返してふにふにと弾力を堪能しては、そろりと乳輪をなぞる。詰まる息、そして鼻から抜ける吐息交じりの声。双丘の頂をほんの少しだけ掠めれば、そこはしっかりと反応を示していた。

(寝起きだってのに、ほんと感度良いんだよなあ)

こんなにすぐに感じられると、布団が擦れるのだって危ういんじゃないかと思ってしまうが、問うたらきっと彼女は言うのだ、降谷さんだから、と。嬉しさしかないからこそ、いたずらにいじめたくてしょうがない。
とはいえそこを弄ぶのは舌ではなく乾いた指先だ。なるべく力を入れずに転がしてやれば、さらに硬くなった先端がぷっくりと膨らみ上がった。押しては円を描き、二本の指で優しく挟んでは引っ張り、爪の先で触れるか触れないかのところを引っ掻くと、抵抗しようと腕に引っかかっていた彼女の指が力なく滑り落ちていく。襲い来る快感から、しなやかな背中に力が入っていくのが分かった。

「ふぅっ、あ・・・っ、おそ、い、んっ、時間、ならっぁ、おひ、る」

彼女は言った。遅い時間なら一緒に食事ができると。眉根を寄せて切なさを浮かべながらも、必死に質問に答える姿にいじらしさもひとしおだ。
快感の享受から晒し出された彼女の喉元に、噛みつくように唇を落とした。

「迎えに行くよ」
「ん、ぁ、はっ、い」

彼女の体に挟み込まれた方の手はそのまま乳房を嬲り、もう片方はわき腹から腰へ、くびれをなぞって臀部へ、そして臀部から腿へ愛撫とともにまさぐっていく。自分の体と違ってどこもかしこも柔らかくて気持ちが良い。
ひんやりとしていた内腿は、互いの体温を融け合わせたかのように熱を持ち始めていた。薄い皮膚をさすり、今度はじわじわと指先を下腹部へ向かわせる。濡れ羽色の下生えを毛の流れのままに遊ばせていると、いよいよ何かを危惧したのか、は咄嗟に潤んだ瞳をこちらに向けた。はらはらと揺れるその目は食われる前のウサギ。まさにそんな顔だ。

「ふるやさ・・・っ、あぁっ、ちょっ、」
「待ち合わせは・・・そうだな、出てすぐのサンデーマートは?」
「さ、さん・・・っひあぁん」

小動物の眼差しを向けられたとて止められないのが狼というもの。指で割れ目をひとさらいし、二本の指で花肉を開く。中指で陰核を掠め秘部へと押し入ると、そこはしとどに濡れていた。
つややかに上がった声が脳内にガンガンと響き渡っては、過剰なまでに分泌されたアドレナリンが腰へと落ちていく。衣服を一枚一枚脱がすのも楽しいけれど、触れたら即素肌というのも乙なものだ。それはきっと、その状況を生み出した前日の夜という光景を思い起こさせるからかもしれない。男女が二人、布団の中で何も纏わずに目を覚ますためには、何も纏わずに布団に入らねばならないのだから。これはそう、世界でたった二人、自分たちしか知らない秘め事の証だ。

「ッあ、ね、ふるやさ・・・っだ、めです」

きゅっと瞬間的に力の入った太腿もなんのその、入り口をなぞって愛液を絡ませた指で陰核に触れると、彼女の体が大きく震えた。

「ひぅ、ぁっ、あ、ふるっ、や・・・ッさ」
「うん?どうした?」

皮の上からやんわりと、指の腹で時計回りにくるくると撫で、時折一定のリズムで肉芽を軽くノックする。素直に反応して喘ぐ彼女ももちろん可愛いが、耳を赤くして恥ずかしがる姿はもっと見たい。だから再び耳たぶを食んで、そのまま舌先で窪みを舐め上げれば、彼女はひと際甘い声を上げて枕の端を強く握った。

「だっ、めぇ・・・っ」

快感を逃がすために足を曲げたいのだろうが、残念かな彼女の足は俺に押さえ込まれてしまっている。だめだと言いつつも、試しに指の動きをほとんど止めてみたらば腰をくねらせてくるのだ、体はなんて正直なのだろう。
芯を持ち始めた陰核を二本の指で挟み込み、皮ごと上下に扱くと、今にも泣きだしそうな瞳とかち合った。

「も、だめ、って言っ・・・」
「それはどういう「だめ」なのかな?」
「ひゃ、ぁんっ、あ、ぁ」

濡れそぼる秘部に指を伸ばし、先程と同じように入り口の縁を何周かなぞってから、おもむろに中指を差し込んだ。中は良い具合にぬかるんでいた。昨夜の名残も相俟ってか、指を食む膣内は普段よりも肉感が強い。
一度奥まで差し込んで、ぐるりと壁を巡った。それからぐっと指を引いて極めて浅いところを。手のひらを陰核に押し付けて、しばしの間刺激し続ければ、足りなくなったのか、彼女の腰が指を呑み込もうと艶めかしく動いてくる。

(気持ち良さそうな顔)

下がった目尻。震えるまつ毛。とろんとした瞳。にわかに赤い鼻の先。そのどれもが扇動的に見えて仕方ない。緩急とともに浅い壁を擦り、出し入れし、休む間もなく指を動かすと、彼女の呼吸が浅くなるのが密着する皮膚を通って伝わってくる。より快感を拾おうとしているのか、それとも酸欠になりそうだからかは定かではないが、小さく開かれた桜色の唇から漏れ出る息と、鼻にかかった甘い声は本当にたまらない。
早く口付けてしまいたいがもう少しの辛抱だ。その代わり、固く竦ませてしまった彼女の体をほぐすように、耳たぶから首筋へと舌を這わせる。だが、素直に反応を見せる肢体とは打って変わって口は強情なのだった。

「だ、め・・・っ、あっ、やぁ」
「もうイきそうだからだめ?」
「ちっちが・・・!しっ、ごとが、ぁっある、から・・・んッ、だめって」

いじわるするな、とでも言いたげに彼女は唇をきゅっと結んでこちらを見るが、薄く涙を浮かべ、上気した顔で言われても、そんなの嗜虐心をくすぐるだけだ。かわいい。だけども泣かせたい。大事にしたい。だけども食べてしまいたい。彼女の反抗心が二極状態の男心をこれ以上ないほどに揺さぶってくる。なんだかんで物理的に攻めていたとしても、精神的に攻められているのはいつもこちらだ。

「ふっ、分かってる。さ、そろそろ起きるか。朝食は何が良い?」

指を引き抜き全ての行為を中断して、布団からのそりと上体を起こす。さきほどよりもみっともなく反応したソコは、見せてしまったんじゃ説得力がないとうまい具合に隠したままで。

「ふぇ・・・?」
「ん?」

急に夢から覚めたみたいな顔でが寝返りを打ってこちらを向く。彼女ときたら眉を八の字にして、情けない顔で口をうっすらと開けては上目遣いで俺を見てくるじゃないか。
そうして彼女もまた体を起こし、胸元の布団をその手に握る以上に手繰り寄せた。肩まで包まるように体をもじもじとさせて情に訴える姿はこの上なく可愛い。だから分かっているのに知らないふりをして首を傾げてみると、躊躇いがちに彼女の唇が開かれた。

「・・・っこ、この状態で、どいちゃうん、ですか?」
「君が言ったんだ、仕事だって。なら朝食はしっかり取らないと」
「な、なんて人だ・・・」

まるで、「このサディスト」とでも言っているかのような視線が、産毛をぞくぞくと刺激する。けしてサディストなわけではないが、好きな女の子はいじめたいという子供みたいな感情が、そのまま年とともに大きくなっただけなのだ。心を奪った君が全部悪いんだ、なんて責任転嫁をしたらば彼女はきっと怒るのだろう。
サイドテーブルから取ったティッシュで指を拭うと、彼女の視線が自分の顔とそこを行き来するのが視界の隅に入ってきた。

「ん?どうした?」

自然と口角が上がる。困っている顔も良いなあとにまにまと眺めていると、は「う・・、」と口を僅かに窄ませて目を泳がせた。

「何か言いたそうな顔だが?」
「・・・っ」
「ないのか?なら俺から聞こう」

言うや否や彼女の瞳に期待の色が映り出す。とはいえ簡単に答えを与えてしまっては意味がない。何をするのかしないのか、その選択権はあくまで彼女にあるのだから。

「朝食はご飯?それともパン?」
「え・・・」

そんなことが聞きたいんじゃない、と浮かんだばかりの期待が彼女から消えていく。ころころ変わる表情はいつ見ても飽きない。しかも顔を仰け反らせて善がっていたからか片側の髪の毛が乱れていて、それが織り成す仕草一つ一つの持つ艶めかしさを助長させている。腕を伸ばして手櫛で(もちろんティッシュで拭ったのとは反対の手で)軽く整えてやりながら、「どっちにする?」と顔をじっくり見つめれば、刹那彼女は俯くもすぐに顔を上げた。このままでは何の進展もないと思ったのだろう。狼狽が浮かんではいるが、先程と違って何かを言おうという決意も窺える。
ゆっくりと、唇が開かれた。さながらスローモーションのようで視線を釘付けにされてしまう。さあ一体なんと答えるつもりなのだろう。そうだな、責任取って、も良いし、続きして、も良い。恥ずかしそうに、降谷さんのばか、の一言もぐっとくる。

「あ、朝ご飯は・・・」

その言葉に頭に置いていた手がはたと止まる。朝ご飯?こんなにもぐずぐずに溶かされた状態で?和食か洋食かどちらが良いかを答えようとでも?しまった。琴線にでも触れてしまっただろうか。案外彼女も負けず嫌いなタイプだ。いじわるするならもういいと言いかねないといえば言いかねない。まずい、と心臓が脈打つのを感じながら、彼女の唇が再び開くのを待った。

「・・・ふ・・・、さ・・・」

あまりにも消え入りそうな声に、思わず彼女の顔を覗き込む。が、すぐさま視線を逸らされてしまう。

?」
「あ、朝、ご飯は・・・」
「朝ご飯は?」
「・・・そ、その、ふるやさんが、いい、です」

その瞬間、なにかが胸を貫いていった。呼吸を奪われるとはまさにこのことで、一瞬にして時が止まる。碌に返事をすることもできずに瞬きを繰り返すだけの自分の顔は、きっと間抜けだったことだろう。しかしいかんせんそんなことを言われると思っていなかったのだ。朝食は俺が良い、だなんて、そんなこと。
そんなのあれみたいじゃないか、仕事から帰ってきた旦那に向かってお風呂にする、ご飯にする、それともわたし、とかなんとか新妻が言うあのメディアの中だけの。ああでも、よくよく考えれば自分がそう言わせるように仕向けたとも取れるのか。風呂かご飯然り、金の斧か銀の斧然り、たいてい答えは三番目だ。もちろんさっきの言葉に深い意味は何もなかったが、きっと彼女はフリに感じたのだ。それで心も体も火照らされ、頭を悩ませて選択肢の裏を読んだに違いない。

(あー・・・、こいつ)

ほんの少しだけ下唇を噛んで、伏し目がちに視線を落として、頬も耳も真っ赤にして。必死に紡いだのだろう誘い文句にこの上ない充足を感じれば、顔の筋肉がどんどん緩んでいくのが分かった。
くつくつと笑みを零しては彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫で、前髪をそろりとのけてキスを落とす。きゅっと瞳を閉じたまつ毛が産毛を掠めてくすぐったい。布団をたくし上げる細い手首を取って枕に縫い付けるように組み敷くと、ひゃ、と悲鳴が上がった。ぼふん、と音を立てて再び沈んだ柔らかい体。背中に乗る布団には、彼女の体温がまだしっかりと残っていた。

「良いのか?朝食抜きになっても」

かち合う瞳のなんと熱を孕んでいること。けれどの目に映る自分の顔はもっとそうだった。
一回の瞬きにも、一回の呼吸にも、ごくりと息を呑むその動きにも。何もかもを奪われて仕方がないことをきっと彼女は知らない。

「こっこんな風にしたの降谷さんなのに」
「はは、責任はしっかり取ってやるから」
「そんな楽しそうに言わっ、あ、ちょ、やだっ、ふるやさっ、あっ・・・」









秘部を陰茎で割り開く瞬間は、いつだって期待と高揚に満ちている。こんな小さなところに男のイチモツが入ってしまうのだから、つくづく女の体は神秘的だ。ゴム越しの肉ひだに猛る自身の先端をゆるゆると擦り付け、密着した肉同士から来る愉悦とともにゆっくりと身を沈めていくてと、挿入に耐えるべく彼女の体にぐっと力が入った。小さく息を吐く彼女の太ももをさすり、そのまま肌を滑らせて頬を撫でる。覆いかぶさって唇に自身のそれを重ねれば、くぐもった声が口内で溶けていった。

「は、ぅ」
「大丈夫か?」

こくりと彼女が頷いた。きゅうきゅうと締め付けてくる蜜壁に、敏感な先端が包まれていく。雁首を通って腰へと駆け上がる快楽に血が沸騰しそうだ。馴染ませながらゆっくりと押し入って、陰茎を奥までぎっちりと埋め込んだ。肉に食まれる温かさは至極気持ちが良い。一体になる喜びに全身が震え上がった。

「っは、夜もしたのに食われそうだ」

君のココに、と腰ごと押し付けるように軽く突くと、甘い声が宙に飛ぶ。

「ふ、降谷さんこそ・・・、すごい、おお、きい」
「こうさせたのは君のくせに」
「・・・っ」

ぶわっと顔を赤くして、は手で顔を覆ってしまった。こいつ、またそんなことして。もはや分かっててこういう仕草をしているんじゃないかとばかりに、いちいちツボを突かれてしょうがない。大きい?それは結構なことじゃないか。だって俺の心を乱すのはいつだって君だし、中心に血を集めるのだっていつも君なんだ。なにが降谷さんはいつも心臓に悪いだ、それはこっちの台詞だ。

「ほら、手どけて」
「あ・・・」

指を一本ずつ絡めとって否応無しにシーツに縫い付ける。性的なことなんか何も知りませんと無邪気に笑う昼の顔が嘘みたいに、露になった顔は艶やかで、扇情的で、どこまでも情欲をそそった。

「・・・」
「・・・っ」

しばしの沈黙とともにじっと明眸を見つめる。けれど耐えきれずに、彼女の視線がはらりと揺れた。

「やだ、そんなに、見ないで・・・」
「どうして?」
「恥ずかしい、からです」
「その恥ずかしい顔が見たいんじゃないか」
「〜〜〜っ」

言葉に詰まった彼女の返事を待っていられる余裕はなかった。乱暴に唇を奪って、隙間もないほどに重ね合わせて、ねろりと舌を割り入れて。熱い口内を好きに貪れば、いやいや言いながらも応えるべくしっかり舌を絡め返してくれるのだ。だからわざと大きく水音を立てるようにむしゃぶりついて、互いの耳を犯し合った。
強く唇を食んで、熱くなった舌で歯列をなぞり、角度を変えては荒い息遣いに興奮を増幅させていく。二人の舌に纏わるものがどちらの唾液かなんてものはもう、すっかり分からなくなっていた。

「ひゃっあぁっ」

前触れなく動き始めた熱に上がった嬌声が部屋に響く。晴れやかな朝にそぐわぬ隠微な音が脳をどろりと溶かしていけば、仕事前だから軽めにしておこうという当初の考えはもう遥か彼方だ。高まる背徳感。増す熱情。気が付いた時には彼女の足を肩まで抱え込んで、昨夜よりも奥深くへと楔を打ち込んでいた。

「んっ、ぁ・・・っあ、あぁっ」
「きもちい?」
「あっ、ふるやさっ、あんっ・・・は、ぅ」

汗で張り付いた前髪をのけて露わになった額にキスをする。前のめりの体制になったことで、これ以上は入らないというところまで膣内を一杯にしたのだろう、亀頭がひと際内壁に食まれ、繋ぎ合わせた指先に強い力が込められた。さながら質問の答えのように、離すまいと白くなった爪先が視界の隅に入ってくる。

「ふ、ぁ、んぅっ、っあ」

瞼を閉じて快感を享受し、白い喉を晒して鼓膜に絡む甘い声を上げる彼女が、時折うっすらと薄目をこちらに向けてくる。熱に浮かされた彼女の肉欲。理性を蝕むその卑猥な視線は、いつも自分の体をぐずぐずに溶かしてしまうのだ。
充血して膨れ上がった陰茎で、子宮口を叩くかの如く腰を打ち付けた。休む間もなく与えられる強い悦楽から彼女の腰が徐々に引き気味になっていく。許さないとばかりにがつがつ追いかけると、彼女の目尻からぽろりと雫が零れ落ちた。

「ひぁんっあっ、あ、ふ、るやっ、さっ」
「っは、、」
「ふ、ぁ、っあ、・・・れ、さん」
「ん、」
「れぇ、さっ、ぁん」

零さん、と譫言のように彼女が名前を呼ぶ。降谷さん、が、零さん、に変わるのは体を重ねている時だけで、少しの寂しさがありつつも、これはこれで特別な感じがして気持ちが良いのもまた確か。
こうやって情事の最中に名を呼ばれると、背中がぞくりと泡立つ。日本中を探せば同姓同名こそ少ないだろうが、同じ苗字は溢れるほどいるし、名前だって性別の垣根を越えて数えきれないほどいることだろう。なのに。それなのに。どうしてだろう。に呼ばれると、自分の名前が特別なものへと変化する。世界でたった一つの美しい宝みたいに、名前にぽっと明かりが灯るのだ。

「あぅ、ぁ、ね、零、さ」
「ん?」
「きっ、もち、いい?」

体を貫く衝撃から揺れた声で紡がれた言葉。繋ぎっぱなしの腕とは反対の、汗をかいたそれが伸びてくるものだから、肩から彼女の足を下ろしМ字に割って身を沈めた。白く薄い肌が自分の腕を這い、鎖骨に触れ、首筋を通り、存在を確かめるように頬を包む。神経の先の先まで沸騰しそうな感覚が全身を巡るのを感じながら、腰の動きを緩めて彼女の耳元に唇を寄せて、ありったけの愛で囁いた。

「最高に気持ち良い」

言うや否や、は恥ずかしそうに、けれども弓なりの両の目で、これ以上ないほど甘やかにはにかんだ。

(・・・!)

どくんと心臓が脈打つ。まるで何かに押しつぶされそうな感覚だ。なあ、感じてる、凄く感じてるんだ。体を繋げて、瞳を合わせて、互いに名前を呼び合って、なにもかも、そう、心も体も一つになった気がするのに、どうやったらそれを思っているまま君に伝えることができる?
歯痒い。科学は毎日進歩しているのに、人間の心は昔からなにも変わっちゃいないなんて。

「ん、ぅ」

噛みつくように唇に吸い付くと、彼女の手が頭を掻き抱いた。その手の優しさの傍らで、揺れる乳房に視線を奪われるあたり、自分もただの男だと内心密かに笑ってしまう。
なんで男は揺れるものが好きなんだろう。ツンと尖った桃色のそこに二三度舌を這わせれば、彼女はすぐに切なげな顔で吐息を漏らした。今度時間が沢山ある時は、ここをじっくりいじめてやるのも良いかもしれない、なんてことを思いながら、かくいう自身も、きゅんと一瞬のうちに疼いた秘部にぐっと息を詰めた。

「あッ・・・ふ、ぁ、あんっ」
「く、っは・・・」

の腰を浮かせて挿入の角度をずらす。少しだけ陰茎を引き抜いて、やや浅めのところを下から上へと突き上げたらば、イイところに当たったのだろう彼女はかぶりを振って高い声を上げた。

「やっ、れ、さん、あぁっそこ、あ・・・ッ」
「凄いな、ぐちゃぐちゃ」
「言わなっ、ひう、ぁ、あ」

恥骨の裏あたりを意識して亀頭を擦り付けると、極僅かに液だまりの膨らみを感じた。今日はなんだか先走りの量が多いのかもしれない。それもそうか、朝っぱらからこんなにも背徳的で楽しいことをしているのだから、興奮するなという方が無理な話だ。きっとも一緒だろう。肉のぶつかりに混じる粘着質な水音がいつもに比べて大きい。

「あんんっ、はぁ、あっぁ」

浮き上がった肋骨がカーテンの隙間から差す陽に照らされている。突き上げに合わせて腰をくねらす光景はまさに絶景だ。暴力的な視界の全てが快感信号となって全身を走り抜ければ、睾丸がせり上がるのを感じた。
そろそろ果てが近い。ピストンを繰り返しながら徐々に挿入を奥へと戻していくと、過ぎた快感からか先程よりもぎちぎちに陰茎を食まれてしまった。時たま背中に当たる彼女の足先はぎゅっと丸まっていて、ちゃんと感じてくれていることにこの上ない嬉しさを覚える。

っ、」
「れい、さ、あっ、も、ぁっ」

強く強く、汗が垂れそうになるのもお構いなしに腰を打ち付けて、眼下で揺らぐ二つの硝子玉を、なだらかな瞼の瞬きを、濡れたまつ毛が束になっているのを、赤に染まる耳のでこぼこを、酸素を求めて必死に呼吸をする喉元を、そう、掬い上げられる限りの恍惚の全てを脳裏にしかと焼き付けた。

「や、ぁっ、あ、いっちゃ、いっ・・・」
「っああ、イけ」

血管の浮き立つ陰茎に張り付く快感が、次第に精神にまで染み出して、もう何も考えられなかった。馬鹿の一つ覚えみたいに熱くとろける内壁を擦り、首に回された彼女の手が汗で滑り落ちたのを良いことに、そちらも指を絡めてシーツに縫い付けてしまう。子宮口を叩くと、もう限界とばかりに熟れた蜜洞が大きく膨らみ出した。

「れいさっ、れっ、さ、あ、ぁ、あっ、ああぁっ」
「く、ぁ、っ」

大きな収縮とともに、今日一番の強さで陰茎が締め付けられる。ぎゅっと眉根を寄せて、波のように迫りくる絶頂に耐える姿が支配欲をくすぐって仕方がない。彼女のこんな顔が見れるのは自分だけで、そうさせることができるのもまた自分だけ。あの首元に噛みついて、皮膚を吸って、自分だけの印を刻みたい。
そんなふつふつと沸き上がる気持ちを抑えて、最後の一突きとばかりに最奥に怒張を捩じ込んで吐精した。勢いよく出したところでどこにも行き先がない彼らも、薄いゴム越しに伝わる生温かさに彼女の膣がひくりとうねるだけで、報われたようなものだ。

「・・・っ」
「はあ、は・・・、、ほら、息」

出して終わりの瞬間的な快感と違って、女のそれはとても長い。絶頂の余韻を追っているのか、それとも耐えているのかは分からないが、イったあとの彼女はいつも息をぐっと詰めて呼吸を疎かにしがちだ。
悶える姿もまた可愛いのだけれど、この時ばかりは男女の違いとやらを痛感させられてしまう。なぜ人間の生みの親は、男が射精したあとにプロラクチンを沢山分泌させるようにしてしまったんだろう。どうせなら長い時間一緒に果てを楽しみたいというのに。
まあ、それはそれとして、今しがたの名残をかき集めればもう一回ぐらいは余裕なのだけれど。

「は、ぅ・・・」
「大丈夫か?」
「ふ、はい・・・だいじょぶ、です」

規則的な締め付けがゆるやかになった頃合いを見計らって、彼女の中からゆっくりと自身を抜き出した。出口を雁首が押し広げるが、それに反応した膣の疼きに腰がひくつきそうになる。はあ、と息を吐きながら萎えたそこからゴムを外せば、思いの外多く射精していたようで、こんなに出た、とに見せると、彼女は力の抜けた手で恥ずかし気に俺を叩いた。
成れの果ての口を結んで、後片付けは後だと先程ぐしゃぐしゃに丸めたティッシュに放る。亀頭にべっとりと付いていた精液が白い太腿を汚すのも気にせずに、しなやかな彼女の体に雪崩れ込んだ。

「きゃ」
「あー・・・、良い朝だ」
「もう支度しないとですね・・・」
「そうだな、ちょっとがっつきすぎた。本当に大丈夫か?」
「ふふ、お昼奢ってくれますか?」
「もちろん。何が食べたい?」
「んー、ほしまるうどんの気分です」
「随分安いな」
「そうですねえ・・・じゃあ、半熟卵乗せで」

そういうことが言いたかったわけじゃないが、半熟卵を割った時の、とろりと流れる黄身に目を輝かせるを想像したらなんだか笑えてしまった。
すんなり昼飯が決まったところで時計をちらりと見れば、現実はもうすぐそこまで迫ってきていた。せめてもの抵抗に、休日だったらなあと体勢を変えてを腕に抱き込む。彼女はくすぐったそうに肩を竦めて、いまだとろんと目尻の下がった瞳をこちらに向けた。

「なあ
「はい」
「ご所望の朝ご飯はどうだった?」
「・・・やだ、秘密です」
「ずるいな君は」

情事後の気だるさとまどろみに襲われるのを感じながら、くすくすと二人で微笑む。どちらからともなく距離を縮めて重ね合った唇はとても温かくて、とても優しくて。何度も何度も啄んでは、溶け合う吐息に混じる多幸感を揺蕩った。












(2018.3.29 Im zuckersüßen Erwachen=甘い目覚めのさなかにて)
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